単価アップに必要なのは○○!イラストレーター五島夕夏さんのお金論

雑誌や書籍、ポスター、ウェブサイトなど、活躍の場が幅広いイラストレーター。「絵を描くこと」を仕事にしたいと思う人は多く、志望者が絶えない人気の職業の一つです。その一方、受注単価(以下、単価)や年収が低く、イラストだけでは生活するのが難しいという声も……。

 

五島夕夏さんは、イラストレーターの活動のほか、絵本『よんでみよう』(岩崎書店)の出版や個展の開催など、フリー歴3年目ながらすでに人気を確立。どうしてイラストレーターになったのか、どのようにイラストの単価を設定し、絵を描く仕事一本で生活できるようになったのかを伺いました。

イラストレーターを目指すきっかけは、ロシアの絵本

――五島さんがイラストレーターになろうと思ったきっかけは何でしょうか?

父もイラストレーターで、日常的にイラストを見ていたことが影響していると思います。また、美大出身で陶芸家の母は、絵本の出版を夢にしていた時期があり、自宅には多くの絵本がありました。読み聞かせをしてもらう機会も多く、そこに描かれたイラストが好きで、絵を描くことを仕事にしたいと思う気持ちが、子どもの頃からありました。

 

ただ、本格的にイラストレーターを目指すきっかけとなったのは、学生時代に出合ったロシアの絵本です。絵本作家のユーリー・バスネツォフが描くイラストに心を奪われて、こんな世界が描けたらいいなと思いました。彼の絵の模写を繰り返すうちに、イラストを仕事にしたい気持ちが強くなり、学校を卒業するとともに、フリーのイラストレーターとして活動することを決めました。

――作品を拝見しましたが、日本ではあまり見ないタッチですね。ユーリー・バスネツォフに影響されたとのことですが、彼の絵はどういう特徴があるのでしょうか?

ユーリー・バスネツォフが描く絵は、こびていないところが新鮮でした。たとえば、動物の場合、怖いクマはそのまま怖く、ずる賢そうなキツネは憎たらしい表情で描かれます。一方で、そんな動物たちが2足歩行だったり、服を着ていたり、リアルな表情と擬人化することによるミスマッチも衝撃的でした。

 

そこで感じたのは、かわいく描こうとしなくてもよいということ。極端にグロテスクでもなく、こびたものでもなく、自分なりに愛らしく描けば、絶妙なバランスになるのがカルチャーショックだったんです。私のイラストを見た人から、たまに「怖い」とか「無表情」といったコメントを受けます。でも、私はその対象に対して愛をこめて描いていて、あえて怖くもかわいくも描こうと思わなくてよいというのが気持ちいいですね。

――五島さんの絵は作家性が強い印象です。イラストレーターとしての活動が制限される心配はありますか?

そうした心配は常にあります。現在の流行は、こってりではなく、サラッとした線画。雑誌のワンポイントとして掲載したり、Tシャツの柄として描いたりと、どこにでもマッチするような絵。一方、私は描きこむタイプで、たくさん色を使う絵なので、好きな人にはハマりますが、汎用性はないことを自覚しています。私の絵のタッチを見てから依頼する人も多いですが、反面「流行りに寄せてくれませんか?」と言われることもあり、どのくらい対応するかは、いつも葛藤がありますね。

――流行の絵を描くのも一つの手ですが、独自のタッチにすれば競争相手が減るかもしれません。市場の需要とのバランスは、どう考えていますか?

イラストレーターは、流行りだから、あるいは市場的にニッチだから、このように描こうというより、自分好みの絵を描くことが大事な職業だと思います。クライアントの依頼に応えることは重要ですが、作家性も大切かなと。いくら競争相手が多かろうが、逆に、まったくライバルがいなかろうが、そことは関係ない感情で描く職業だと考えています。

 

そうした作家性を土台にしつつ、仕事にできるかどうかは自分の営業次第。私の場合は、そのバランスを半々にしているつもりです。人によって、その比率が異なるので、それがイラストレーターとしての仕事のスタイルにつながるのではないでしょうか。

単価や収入のアップには必要なこととは

―― 一部では、イラストレーターはほかの職業と比べて収入が低いともいわれていますが、単価アップのためには市場のニーズに合わせることも必要では?

市場のニーズというよりは、何かしらの付加価値をつけることが重要だと思います。私の場合は、SNSのフォロワー数。現在、Twitterが4万5,000人弱、Instagramが2万4,000人ほどいて、企業に対しては、このような数字がひとつの判断基準になるのではないでしょうか。

 

なかには「絵だけで勝負していない」と思う人もいるでしょうし、そう思われる覚悟もしています 。しかし、私は「おもしろいツイートをしているから」「フォロワー数が多いから」といった理由で仕事が来るのもアリだと思いますし、どんな理由でもご依頼いただいた以上は誠意を持って対応したいと考えています。むしろ作家性が強すぎると、依頼する側が扱いに困るケースもあるかもしれません。絵だけで勝負する美学も素晴らしいと思いますが、それにこだわりすぎると、苦しくなる気がします。

――ほかにも、意識していることはありますか?

市場のニーズに合わせることやクオリティを高めることを意識しすぎると大変なので、私の場合はクライアントと会う際は身ぎれいにしたり、笑顔で対応したりと、絵以外のことを考えています。

 

クライアントにこびるということではなく、誰にでもよい印象を与えることが、仕事のモットー。そうして仕事を頼みやすい状況にして、実績を積み重ねていけば、ネームバリューが高まり、自然と単価も上がるかなと。私の場合は、依頼される仕事の予算が大きくなり、イラスト単体というよりも一つの仕事の単価が上がったといえます。

――イラストの単価はどのように設定していますか?

納期やイラスト点数、サイズ、何の画材で描くのかなど、すべて含めて計算しています。なぜ画材が関係するかというと、私の場合、絵の具で描く際は筆の勢いを大事にして、下書きをせず伸び伸びとしたイラストにしようと決めており、工程が少ないので比較的早く仕上がります。一方、色鉛筆はラフと下書きを描いて、しっかりと時間をかけてと描き込むスタイル。そのため、絵の具と比べて、納期も費用も多めに考えています。

ただし、企業から依頼されるときは、自分で金額を決めるよりも、先方から提示されることが多いですね。どのくらいでできるのか価格感を聞かれた場合は、ほかの案件を基準に提示します。

 

具体的な単価は、数万円から数十万円まで本当にさまざま。点数が多い仕事は、単純に作業量も増えるので、1回の仕事でもそれなりにもらうようにしています。

フリーランス3年目で兼業から専業へ

――フリーランス歴3年目の五島さんの収入はどのような状況でしょうか?

現在の収入源は、イラスト制作だけではなく、絵本の出版や個展の開催、ライター業の仕事もあります。出版や個展は準備段階では収入にならないので、月収が20万円のときもあれば、大きなイラストの依頼やライティング業務が集中して100万円ほどになるときもあって波があります。

 

イラストレーターを始めた当初は、自分の仕事に対する適正価格がわからず、相手の言い値で受ける仕事もありました。親切心から声をかけてもらったのですが、「メディアに載せてあげるから描いたら?」と提示された費用がかなり安かったことも……。 今では適正と思える価格での依頼があり、納得した上で仕事ができますね。

――イラストレーターだけではなくて、絵本作家やライターとしても活動されているとのことですが、収入の内訳はどうでしょうか。

実は現在、ほぼイラストだけに絞っています。1年目は、美容室の受付のアルバイトなどをしていて、イラストだけでは生活できませんでした。2年目からは、被写体として顔を出しながら、旅行系コラムを書く連載の依頼をひょんなことからいただいたので、安定した固定収入がある上でイラストの仕事もできるようになりました。そのときの収入の比率はイラスト7割、そのほか3割といった状況でしょうか。

 

3年目は絵本の出版や個展の開催と、イラストにかける時間を確保するため、イラスト以外の仕事はセーブしています。出版や個展で収入を得られるようになった一方、ライター業は連載をストップしてもらっているので、トータルの年収は2年目と現在であまり変わらないかと思います。

 

ありがたいことに個展を開く機会をいただくことも増えましたが、正直なところ、個展の収入は読めません 。私の場合は、大きい絵を何百万円で売ることはなく、正直クライアントから依頼を受けてイラストを描くほうが収入は大きいです。ファンの方には若い子が多いので、個展の絵はできるだけ安く売りたいと考えている一方、時間はかける必要があって……。

 

ただ、個人的には、できるだけ多く稼ごうという意識はなく、むしろ好きなことができてお金をもらえることがありがたいですね。1年目にさまざまな仕事を行い、2年目にイラストレーターとライター、3年目はほとんどイラストだけに絞れてきているので、個人的にはいい流れかなと。

――ロシアの絵本作家に憧れて、イラストレーターになったと最初に聞きました。すでに絵本を出版され、ある意味、夢はかなったといえるのではないでしょうか。その上で今後やってみたい仕事はありますか?

こんなに早く夢がかなうとは思いませんでしたが、今後も絵本を出したい気持ちはあります。お菓子のパッケージのイラストを描く仕事もやってみたいですね。

Interview
五島夕夏(ごとう ゆうか)さん
五島夕夏(ごとう ゆうか)さん

1992年7月18日生まれ。桑沢デザイン研究所卒。学生時代に出合ったロシアの絵本に大きく影響を受け、絵本画家を志す。現在はフリーのイラストレーター・ライターとして活動中。2017年に自身初の絵本『よんでみよう』発売。
http://u0u1.net/BLPF
Twitter ID:@goto_yuuka

Writer Profile
杉山大祐
杉山大祐

有限会社ノオト所属の編集者、ライター。Twitterの話題をニュースにする「トゥギャッチ」の編集やスポーツ系SNS運用を担当。家庭用ゲーム機からPCゲーム、アーケード、アナログゲームまでさまざまなジャンルを遊ぶ無類のゲーム好き。Twitter ID:@doku_sho

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