正しいしつけは人と犬が共生するための第一歩 ドッグトレーナー・鶴田英寿さん

ペットとして、いつの時代も根強い人気を誇る犬。家庭に迎え入れるとき、人も犬も楽しく健康的に暮らすために、ある程度の「しつけ」は大切です。

 

とはいえ、「本を読んでもうまく実践できない」「かわいさのあまり、好き放題させてしまう」とお悩みの飼い主は少なくないかもしれません。そんなときに頼りになるのが、ドッグトレーナーです。

 

フリーランスのドッグトレーナーとして15年以上のキャリアを持ち、ペット終生飼養総合サポートサービス「ぽち乃家」の代表を務める鶴田英寿さん。ドッグトレーナーとはどんな仕事なのかを聞くとともに、やりがいや収入についても伺いました。

ドッグトレーナーは、技術と忍耐力が必要

――まずは、ドッグトレーナーになろうと思ったきっかけを教えてください。

実は大学卒業後、フリーランスの戦場カメラマンを経て、出版社専属のカメラマンとして活動していました。取材を通して、ドイツやスイスをはじめとするヨーロッパで「人と犬が共生する文化」を肌で感じる機会があり、興味をもったことがきっかけです。あちらでは、電車等の交通機関に家庭犬が乗ることもあるなど、日本とは違うペット文化があります。

 

当時はちょうどデジタルカメラが普及し始めた頃で、自分が撮りたい写真を表現しづらくなってきたタイミングとも重なり、43歳から思い切ってドッグトレーナーの道を志しました。

――長年のキャリアから異業種のドッグトレーナーに転身されたのですね。

はい。40代からの挑戦だったので、中途半端な気持ちではできないと思いました。親族のつてで、まずはアメリカの警察犬学校で6カ月間かけて、座学や実践トレーニングを学ぶことに。

 

そこで改めて、動物を相手にする厳しさと、正しいしつけは人にとっても犬にとっても欠かせないことだと実感できました。そして、技術と忍耐力が重要だとも痛感したんです。

――帰国後すぐにフリーランスになったのでしょうか?

まずは、基本的な犬の生理学や病気の対処法などを、知り合いの動物病院で覚えました。その後、日本警察犬協会にも出入りしたのですが、そこはあくまで仕事をする犬を訓練する場所。

 

私は、アメリカで学んだ「フォーマットトレーニング」を一般家庭の犬に指導したかったので、フリーランスの道を選びました。とはいえ、最初の3年はドッグトレーニング一本ではなく、ペットの世話をするペットシッターやカメラの仕事をもらいつつ……という状況でしたね。

飼い主が、犬にとってのリーダーになる必要はない

――「フォーマットトレーニング」という言葉を初めて聞いたのですが、どういったものか教えてください。

アメリカの師匠が使っていた言葉なのですが、人と犬が正しい関係性を築くためのトレーニングです。時折、「飼い主は犬にリーダーとして認識してもらわないといけない」などと聞くことがありますよね。

 

でも、人が犬を飼うことは、人の社会に犬が参加しているので、飼い主がリーダーになることよりも、人と犬との関係性を育み、社会化された犬になるようにする指導が重要なんです。それが結果的にお互いの信頼関係に繋がってゆくとお伝えしています。

――現在はどのような仕事がメインでしょうか?

個人レッスン、集団しつけ教室がメインです。合間にペットシッターや、依頼があればマンションや自治体などで講演をすることもあります。

▲取材日のしつけ教室は5組が参加(撮影:ノオト)

――それぞれどんな内容ですか?

個人レッスンは、まず1時間程度のカウンセリングで悩みや日ごろの環境を確認することから始め、こちらの方針を説明した上で、実際のレッスンに進むか決めてもらいます。だいたい6回前後で、ほとんどの悩みが解決しますね。内容は、吠えグセ、噛みグセ、トイレのマナーなどが多いです。

 

集団しつけ教室は、毎週日曜の朝9時から新宿区の落合中央公園のドッグランで行っています。こちらは、予約なしで誰でも参加できる気軽さが人気ですね。それぞれの犬の悩みや課題を聞いて、指導を行っていきます。週一のレッスンを3カ月くらい続けると、ほとんどの犬が改善されますよ。

――仕事はどうやって広げていくのですか?

公園やドッグランにコミュニティがあることが多いので、その中でしつけられた犬がいると、飼い主さん同士の口コミで興味を持っていただいたり、紹介してもらったりすることが多いです。実績を積み重ねることは、信頼を獲得するための近道だと思います。

――この仕事のおもしろさはどこにあるのでしょうか?

飼い主さんたちは、みんな暗い顔して相談にくるんです。でも、1カ月もすると笑顔が増えて、楽しそうにレッスンに参加して、犬への愛情も増していくんですね。幸せそうな表情を見るのはやはり快感です。

 

それに、「うちの子もやればできる」と気づいてくれるのもうれしいです。犬の価値をしっかり理解してもらえたんだな、と。

――逆に苦労はありますか?

犬が悪いと思い込んでいる飼い主さんの説得は大変ですね。人は犬のようにマニュアル化できないので(笑)。ここは、言葉の選び方や人付き合いのテクニックの部分も大きいので、堂々とした態度や経験が必要になってくるかと思います。

――仕事をする上で心がけていることはなんですか?

基本を忠実に、ていねいに行うことです。あとは、犬を愛する気持ちを持ち続けること。これがないとできない職種だと思います。ときには獰猛な犬種もいますし、そこで恐怖心を目の色に出すのもよくないので、抑制することも重要ですね。

――これまで、思わぬトラブルやケガはありましたか?

大きなケガといえば、手のひらを貫通してしまうほど噛まれたことはありますね。日本ペットシッター協会の団体保険に入っているので保証はありましたが……。ケガをしたときの応急処置は、動物病院で得た知識が役立っています。

思わぬケガに備えて保険加入は必須!

――フリーランスになるにあたり、まとまった資金は必要でしたか?

いえ。チェーンチョークやリードをそろえるくらいでさほどかかりませんでした。移動を考えて、車があると便利ですが、マストではありません。

――各レッスンの価格設定や、毎月の経費を教えてください。

個人レッスンは1時間8,000円、しつけ教室が2,000円、講演は規模によってまちまちですが、5万円ほどいただくことが多いです。シーズンによってばらつきがありますが、基本的に1日3件ほど入る個人レッスンが売上の大部分を占めていますね。

 

経費は、月5万円くらいでしょうか。犬に与えるおやつは、豚レバーをゆでて焼き固めるものを手作りしています。あとかかるのは、消耗品のリードや移動の車のガソリン代くらいです。

――先ほどのケガの話で保険に加入していると聞きましたが、どのような保険なのでしょうか?

保険はアシスタントも含めた団体で加入していて、1年で20万円程度の負担です。万が一に備えて休業保険もついていて、その場合は1日5,000円の保証がついてくるようにしています。

――最後に今後の目標を教えてください。

これからの日本は、高齢化社会がますます進み、個の社会になってくるのではないかと思います。そんなとき、何か欠けたような心の隙間を埋めてくれるのが、ペットではないでしょうか。犬を伴侶にして生活することで、生きがいを持てるというか。

 

今年から、高齢者向けにレクリエーションのパフォーマーを派遣しているハコカラ社との提携で、高齢者施設でのドッグセラピー・イベントへ参加しているのですが、触れ合いの場を設けるとみなさん笑顔になってくれて、改めて犬の価値を実感しています。

 

今後は、家庭犬を伴侶犬として訓練できる人を育てたいですね。人と犬が終生をともにできるサポートができるよう、日本伴侶犬協会を作りたいと考えています。

 

単にかわいい愛玩動物としてではなく、伴侶動物として犬が認知されるようになればうれしいです。犬にはそれだけの価値があるのだと広く認知してもらうためにも、正しいしつけがその第一歩になればと思います。

Interview
鶴田英寿さん
鶴田英寿さん
1960年生まれ。カメラマンを経て、43歳のときにドッグトレーナーに転身。2003年に「人と動物が幸せに暮らす共生社会」を目指し、ペット終生飼養総合サポートサービス「ぽち乃家」を設立。米国PDTA認定、日本警察犬協会正会員の家庭犬訓練士(ドッグトレーナー)であり、ペットライフシッター、ドッグライフケアマネージャーとして活動中。一般社団法人 日本伴侶犬協会 理事長。一般社団法人 ペットシッター業推進協会 理事。 http://www.geocities.jp/pochi_noya/dogtrainer_tsuruta.html
Writer Profile
関紋加
関紋加

有限会社ノオト所属の編集者、ライター。ヨガウエアやオーガニックコスメの販売経験から、好きな分野は料理、美容、健康、ライフスタイルなど、毎日の暮らしにまつわるなにげないこと。現在は、企業のオウンドメディアを中心に活動中。趣味は、食べ歩きとミュージアム巡り。

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