
作家としても才能を発揮する又吉直樹さん、トレーニングジムを経営するヒロミさん、以前はタレント業と並行して一般企業に勤めていた大久保佳代子さんなど、芸能人の中には、本業と異なる分野の職業を兼業している人も。
今回登場する西原愛夏さんも、そのうちの一人。芸能人であり、国家資格の歯科衛生士でもあります。「どちらの仕事も好きで大事」と語る彼女は、どのようにして二足のわらじを履くことになったのでしょうか?
テレビと父に影響を受けた子ども時代
――まずは、芸能活動を始めたきっかけから教えてください。
小さい頃からドラマを観るのが好きで、「やってみたいな」とぼんやり夢見たことはあったんですが、とくに影響を受けたのは、小学校のときによく観ていた『天才てれびくん』だと思います。
私、昔はもっとおとなしくてしゃべるのが苦手だったんですけど、「天てれ」に出ている同い年くらいの子たちは、みんなハキハキしゃべるんですよ。それを観て、子どもながらに「なんてすごいんだろう」と憧れていました。
そんなとき、両親と遊びに行った原宿でスカウトされて、「私にもできるのなら」と始めたのがきっかけです。でも、同じくらい歯科衛生士にも憧れがあったんです。高校を卒業して、歯科衛生士の専門学校に入学するタイミングで、一旦芸能活動に区切りをつけました。
そうして昨年3月に専門学校を卒業してから、あらためて芸能活動を始め、今に至ります。なので、過去にも一度芸能活動をしていた時期があるんです。
――そうなんですね。では歯科衛生士にはいつ頃から憧れが?
実は私の父が歯科医師で、ずっとその姿を見て育ってきたんです。印象深いのは、ある女性が来院されたときのこと。すっごく美人な方だったんですけど、口の中は虫歯や歯周病でボロボロになってしまっていて……総入れ歯にしなきゃいけないくらいの状態だったんです。
でも、父の治療を受けて1年後には口の中がすごくキレイになっていたんです。それまで口を隠しながらじゃないとしゃべれなかったのに、自信がついてハキハキしゃべるようになって。
――そういう様子を見ると、憧れの気持ちが膨れ上がりますよね。対象がお父さんなら、なおさら。
ですね。医療ってすごいな、私もサポートする側に立ちたいなって、ハッキリ思いました。そして、専門学校に入学したのですが、結構厳しい学校で、国家試験を受けるまでに何回も模擬試験があるんです。卒業試験なんて、国家試験の応用問題が出題されるうえに合格ラインを満たさなければ留年なので、最後の半年間くらいは、毎日寝る間も惜しんで勉強していました。私の人生で紛れもなく一番勉強してた時期ですね(笑)。おかげで、資格取得までストレートにいけたのでよかったです。
――でも、専門学校卒業後は芸能活動を始めるんですよね。
はい。やっぱり、もっと芸能活動をやってみたかったんですよね。それに、歯科衛生士は資格さえもっていればいつからでも働けるじゃないですか。なので、まずは芸能活動に重点を置こうと思い、昨年の4月から事務所に所属しました。
ただ、その年の夏に縁あって現在働いている歯科医院の理事長さんとお会いして「芸能活動しながらでいいから」と誘ってくださったんです。それに、シフトも「芸能活動優先で」と融通をきかせてくれたので、お世話になることにしました。
“自分の強みとは”模索する日々
――昨年の夏から始まった二足のわらじ生活。現在はどのようにスケジュールを組んでいるんですか?
基本的には、芸能と歯科衛生士の仕事を同じ日に入れないように組んでいます。歯科医院の仕事を入れた日は、(芸能事務所の)マネージャーさんにも伝えて、できるだけかぶらないようにしていますね。ただ、芸能の仕事は直前に決まることも多いので、最終的には両方をこなす日もありますが。
――芸能活動は、これまでどんなことをしてきたんでしょうか?
いろいろとやらせていただきましたが、主には舞台や映画、グラビアなどでしょうか。とくに1本目の舞台は専門学校を卒業してすぐに受けた仕事であり、私にとって初舞台初主演作。なので、精神的にも肉体的にもすごくしんどかったのを覚えています。
しかも、稽古から本番までの約1カ月間は、舞台の出演料が入ってこないんです。当時はまだ歯科医院に勤める前でしたし、朝から晩まで稽古漬けだったので働く余裕もない。どうやりくりしていいのかわからず、ギリギリの生活をしていました。今のところ、とくにキツかった仕事かも。
――しかも、その後に歯科衛生士としても働き始めるんですよね。
そうですね。一応専門学校で実習も経験していますが、歯科医院によってルールが違うし、治療の仕方も器具を使う順番も、先生により変わります。なので、まずは裏方的な雑用から始めて、先生のやり方を覚えて表に出られるようになっていきました。連日入れるわけではないので覚える速度は遅いんですが、欠かさずメモをして次に生かせるようにしています。
そうして応対ができるようになると、今度は患者さん一人ひとりの性格や悩みに合わせた受け答えを求められるんです。なので、学ぶことは尽きないですね。常に勉強している感じです。芸能の仕事もそうですけれど。
――舞台に映画にグラビアにと幅広く活動していると、覚えることは多いですよね。
ですね。それに、芸能の場合はオーディションに受からないと何も始まらないんですが、最初は全然受からないんです。覚えるよりまず、そこが大変ですね。どんどん新しい子が出てくる世界で、どうやって人と違うところを見せればいいんだろうって悩みます。
――そういう場面で、歯科衛生士の肩書きは強みになるのでは?
オーディションで趣味や特技をアピールする人は多いのですが、それはあくまで自己申告なんですよ。私の場合は苦労して取得した国家資格なので、他の人とはほとんどかぶることがないのはひとつの強みだと思いますが、やっぱりそれだけではダメだと思います。歯科衛生士の資格を持つタレントとして、私なりの切り口でコメント力を付けていきたいですね!
――それ以前に、芸能人として力をつけるべきだと。
はい。バラエティによく呼ばれている方たちって、本当に頭の回転が速いじゃないですか。私はどう切り返したらいいのかまだわからないので、その力をつけたいですね。スタッフさんたちに、どういう人が求められているのか聞いて、自分なりの答えを見つけようとしています。
あとは、実績を積むことも大事だなと。もともとお芝居をやりたかったのでグラビアには抵抗があったんですけど、経験したことでアピールポイントが増えてオーディションに通りやすくなったんですよ。今思えば、やってよかったなと思います。自分の体型がグラビア向きだということにも気づけましたし(笑)。
――どちらの仕事にもひたむきですね。二足のわらじを履いているということは、2倍勉強しているこということでもあるので、疲れも溜まりそうですが……。
でも、仕事をしていないと生きている実感が湧かないんですよ、私。なので、「毎日忙しいなぁ」くらいがちょうどいいですね。
専業にならないのは「両方好きだから」
――ちなみに、芸能人と歯科衛生士、仕事の割合はどのくらいですか?
舞台のような長期にわたる仕事が入ると、歯科医院には行けなくなってしまうので、時と場合によるんですけど……大体半々ですかね。スケジュールを組むと、そんなふうになることが多いです。
――では、収入の割合は?
正直なところ、歯科医院の仕事一本に絞ったほうが収入はいいですね。同じだけ働いても、芸能の仕事は歯科医院の仕事の2分の1くらいなので。でも、両方とも好きでやっているので、お金のことはあまり気にしていません。たとえギャラが少なかったとしても、芸能の仕事はちゃんとやっていこうと思ってます。
――そんな話の後で聞きにくいのですが、とくにギャラが少なかった仕事ってなんですか?
舞台ですかね? 名前が売れている方は別なんでしょうけど、稽古を含めた数カ月間は一切お金が入ってこないですし、興行によってはチケットバック(※チケットを買い取り、売りさばく方式)になることもあるので。下手したら赤字になっちゃいます。実力をつけて有名にならないことには、どうしようもないですね。
――とすると、将来は芸能一本に絞ることもあるのでしょうか?
うーん、それはないですかね! 今の形で働き始めたからには、ずっと両立していきたいです。
――「両方好き」な証拠、といったところでしょうか。
はい。まだ未熟な私ですが、常に実践と勉強を欠かさず一人前になっていきたいです。歯科衛生士としては、患者さんにあった治療の説明ができるようになることと、歯のクリーニングの上達が目下の目標ですね。
芸能人としては、自分にしかできないことを見つけて、グラビアでも芝居でも活躍できたらいいなと思っています。そうして、芸能の仕事を通して、歯科衛生士や歯科医院のことをもっと伝えていけたらいいなと思っています。