夫婦で雑貨店を経営、その働き方と金銭事情【前編】

飲食店に限らず、夫婦でお店を持つケースは少なくありません。開業に至るまでの道のりや、夫婦だからこその強みはどんなものがあるのでしょうか。食器とキャンドルのセレクトショップ「Clave.」(クラーヴェ)と、器と暮らしの道具を扱う「Parque」(パルケ)の2店舗を経営する青木辰徳さん・未来さんご夫妻に疑問をぶつけてみました。

会社の枠組みの中ではなく、自分のやりたいことをやってみたい

――まずは、夫婦で開業することになったきっかけについて教えてください。


未来さん:元々、私は雑貨屋巡りや手作りの物が好きで、将来は自分の感覚で選んだ物をお客さまに紹介する仕事がしたいなと、漠然と考えていました。そのとき勤めていた会社の景気があまり良くなくて、会社の枠組みの中でやりたいことを探すよりも、自分のやりたいことをやってみたいと思うようになりました。私も夫も勤めていた会社で店舗業務や商品開発に携わっていた経験があり、それで30歳のときに“やるなら今かな”と、年齢が後押しして開業することにしました。

 

辰徳さん:お店を始めるのも、どっちかから「やろう!」と言い出したわけでもないんです。お互い勤めていた会社をほぼ同じタイミングで辞めることになって。“それなら”と一緒に事業を始めることになった感じかな。


未来さん:退職した約半年後の2010年10月に、東急東横線の都立大学駅近くにセレクトショップ「Clave.」をオープンしました。お互い食べることが好きなのもあって、雑貨は食卓を飾る食器とキャンドルを扱うことにしました。開業を考えたとき、両親には「大丈夫?」と不安がられましたが、最終的には「やりたいならやってみれば?」と応援してくれたので、ありがたかったですね。

――開業資金はどうされたのでしょうか?

未来さん:開業資金は会社員時代の貯金ですね。当初はヨーロッパで買い付けた品を販売することにしていて、フランスやスペインなど、1カ月くらい海外を回っていました。それまでずっと仕事詰めで、海外にほとんど行けてなかったから……まあ、無駄遣いするよね(苦笑)。

 

辰徳さん:帰国後、「わぁ、まじか……」って。

 

未来さん:宿泊費、交通費、食費、買い付けもすべて込みで100万円以上も使ってしまいました。買い付け金額はその半分くらいかな。ただ、想像以上に飲食代の割合が高くて……。本当、あの頃の自分を叱り飛ばしたいですよ。今なら5分の1程度の予算で行けるんじゃないかな。

 

辰徳さん:そんなに予算をがっちりと決めていたわけではなかったのと、夫婦だと一人で行く予算の倍はかかってしまうので、金額が大きくなりましたね。

――開業してみて、想像と違っていたことはありますか?

辰徳さん:事業計画書通りにはまずいかない。あれは“こうなったらいいな”を詰め込んでいるだけであって、絵空事だと後から思いましたね(苦笑)。あと夫婦経営の視点でいえば、最初は経費のかけ方など細かなところで意見がぶつかることが多かったです。慶弔には夫婦二人で行くことができません。最近は臨時休業などで柔軟に対応していますが、重なるときは悩んでしまいます。

 

未来さん:実際、お店をオープンしてみないと分からないことはすごく多くて、走り出した後に「こんなはずじゃ……」っていうことばかり。たとえば、開業した5カ月後の2011年3月11日に東日本大震災が起こりました。流通は機能しなくなったし、取引先が倒産することもありました。独立開業する場合、最初から順調に行くと思っていると、心が打ち砕かれると思います。そこを柔軟に対応していけるように、「最悪こうなったらこうしよう」という選択肢を考えておいた方が、気持ちに余裕を持てるかもしれません。

――2015年には東急目黒線の西小山駅近くに2号店をオープンされましたが、その理由は?

未来さん:1号店の「Clave.」で日本の陶芸家さんの個展を開いたのですが、スペースが狭く、作家さんの作品を余裕持ってお見せすることができなくて……。そのとき、「もっとくつろぎながらゆっくりみてもらえるようなギャラリースペースがあったらいいね」と二人で話していました。そこからいろんな縁があり、ギャラリースペースを確保できる物件と出合ったので、2015年の7月に器と暮らしの道具を扱う「Parque」を開くことになりました。こちらでは、食器の販売だけでなく企画展もどんどん行っています。

辰徳さん:「Parque」の物件は、もともとは写真館で味のあるすごく古い建物だったんです。その雰囲気を生かした方が自分たちの扱う商品とも合うと思い、内装は友人の力を借りて自分たちで仕上げました。そのため、内装費はそこまでかからず、通常不動産を借りる初期費用程度の低予算で2号店目ができました。今は、それぞれの店舗でお互いに店番しています。

夫婦経営だからこその強みとは

――夫婦でお店を経営することについて、メリットやデメリットはありますか?

未来さん:公私ともにいつも一緒にいるので、あえて明文化しなくても日常の業務を分かり合えることはメリットであると同時に、何かあったときにほかの人に頼みづらいのはデメリットかもしれません。イベントのときなど、簡単な業務は友だちにアルバイトを頼むことはあるんですけど。あと、ずっと一緒にいるから毎日喧嘩しますよ。小競り合いが絶えない(笑)。

 

辰徳さん:僕らの場合だと、片方がお店に立つとして、もう片方が外に出て作家さんに会いに行くことができます。これは夫婦経営の強みかもしれません。ネットで作家さんの発掘をするだけでなく、実際に作品を見て、手に取って、自分たちの店に合うものを考えられますから。とはいえ、今は2店舗あるので、それも難しくはなってきていますが。あとは、もし何かが起こって経営を縮小させる必要性に迫られたら、そのときはどちらかが外に出て働いて収入を得ながら、自分たちの店を続けられるんじゃないかと考えています。これは夫婦経営だからこその選択肢かもしれませんね。

Interview
青木辰徳さん/青木未来さん
青木辰徳さん/青木未来さん

食器やキャンドルなどの雑貨を扱った「Clave.」(東京都目黒区)と「Parque」(同品川区)を夫婦で経営する。
▼Clave.
http://www.clave.jp/
▼Parque
http://parque-tokyo.com/

Writer Profile
名久井梨香
名久井梨香

1989年生まれ、吉祥寺在住。新卒で大手広告会社の営業職に就職するも、会社員は向いていないと気がつき、1年で退職。その後フリーライターとなる。趣味は横浜F・マリノスとカレー。

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