ベテラン税理士が解決! フリーランスの確定申告「お悩み相談会」レポート【前編】

東京・五反田のコワーキングスペース「CONTENTZ」で2016年9月17日、フリーランスを対象にしたイベント「税理士にお金の話を聞こう! フリーランス確定申告相談会」が開催されました。

 

登壇した税理士は、個人事業主向けの会計サービス「マルナゲ」(エフアンドエム)会員の確定申告をサポートする税理士2名。確定申告にまつわる赤裸々トークを展開しました。フリーランスにとって、知らないと損する目からウロコの知識が詰まったイベントのハイライトをお届けします。

 

【登壇者プロフィール】

  • 大野輝人
    F&Mパートナーズ税理士法人、大阪本社代表社員。税理士、資産運用アドバイザー。1953年生まれ、東大阪市出身。1983年に税理士試験合格。合格科目は、簿記、財務諸表論、所得税法、相続税法、固定資産税。1984年近畿税理士会吹田支部登録。租税訴訟学会近畿支部会員。最近では生命保険会社などで事業承継対策を中心にセミナーの講師を務める。
  • 伊藤由一
    F&Mパートナーズ税理士法人、名古屋事務所代表。税理士、社会保険労務士。愛知県名古屋市出身。1988年に税理士試験合格。1993年より多数の金融機関等で相続セミナーの講師を務める。上場コンサルティング会社の税務アドバイザーを担当するかたわら、地域密着の事務所運営により、確定申告時期には多数の来場者を記録する。
  • 宮脇 淳
    1973年3月、和歌山市生まれ。雑誌編集者を経て、25歳でライター&編集者として独立。5年半のフリーランス活動を経て、コンテンツメーカー・有限会社ノオトを設立した。フリーランス支援策として2014年、東京・五反田のコワーキングスペース「CONTENTZ」を開設した。今年7月には、夜の社交場としてコワーキングスナック「CONTENTZ分室」をオープン。

 

確定申告をしないと結果的に“損”をする

宮脇 :そもそも、「確定申告って、本当にしないといけないの?」という疑問を持っている人もいると思います。このイベントに参加している皆さんは大丈夫でしょうけど。

フリーライターはギャランティの支払い段階で源泉徴収を10%、今は復興特別税0.21%も一緒に差し引いて、銀行口座に振り込まれるじゃないですか。そうすると税金を先払いしていることになって、確定申告はある意味、多めに先払いした税金を取り戻す作業になるわけです。

そう考えると、確定申告をしてお金を取り戻したほうがいいのか、1割強の税金を諦めたほうが気楽でいいのか。実は、知り合いのライターにも、確定申告を面倒くさがって、毎年確定申告をぶっちぎる “男前”なライターさんもいまして……(苦笑)。税理士さんにこんな質問をするのはおかしいのは承知しているのですが、どっちがよいのでしょう?

 

伊藤さん: (笑)。義務みたいな話はいったん横に置いたとしても、金銭的には確定申告をした方が得な場合が多いですね。収入によって国民健康保険の金額が決まりますが、たとえば300万円の収入があったとしても、その収入を得るために普通はさまざまな経費がかかります。そうした経費を引いて、実際の所得は300万円の収入のうち150万円だとします。

確定申告をすれば、150万円に対してのみ住民税がかかりますが、確定申告をしないと300万円の収入にそのまま税金がかけられてしまうので、税金が本来より多く引かれてしまうことになります。

また、国民健康保険に加入している場合、各市町村が毎月の支払い金額を決めるわけですが、所得に応じて金額が上下します。そのため、きちんと収入から経費を引いて申告することで、支払い金額に差が出るだろうと思います。


宮脇 :なるほど、税金面で損をすると。

 

税理士の伊藤さん:あと、大事なのは信頼ですよね。たとえば、フリーランスの皆さんが家を買いたいと思って、ローンを組もうとしたとき、「確定申告をしていませんでした」となると、納税証明が取れません。国税と市町村、それぞれの納税証明書がないと住宅ローンは通りません。納税証明ではなく、報酬証明だけでもローンは組めるケースもありますが、不利になることもあります。

 

宮脇 :確定申告は、その人の稼ぎ力を証明する機会でもある、と。

 

税理士の伊藤さん:そうですね。車のローンくらいであれば借りられるかもしれませんが、住民票は別として、日本では納税証明が一種の身分証明に近いものですからね。サボらない方がいいかなと僕らは思います。

確定申告は白色or青色? 何を基準に選ぶべき?

宮脇 :よく「白色申告」と「青色申告」、どちらがいいのかという話になります。この2つの違いについて、なかなか説明しにくいのですが、分かりやすく教えていただけますか?

 

税理士の大野さん:まず青色申告ですが、単純にいうと「税務署の指導のもとに、現金出納帳や仕訳帳、総勘定元帳などを含む必要書類について、正規の簿記の原則に従って整然と間違いなく記帳している人に限って、青色申告の免許を与えましょう」というものです。その代わり、65万円特別控除等の税制上の特典をつけてあげましょう、と。

白色申告は「書類を集めるのも、記帳も面倒くさい」という人向けのものでした。今、「した」と言ったのは、2014年1月より、白色申告者にも記帳と帳簿書類の保存が必要となったからです。それでも、白色申告には優遇措置はありません。優遇措置を受けたいかどうかで決める人はいるでしょうね。


宮脇:そういう考えで決めていいものなんですね。

 

税理士の大野さん:これは、その人の考え方です。「優遇措置があるので、青色申告にしよう」という人は青色にしたほうがいいですし、税理士も青色申告を推奨します。白色申告ですと、どうしても中途半端。税理士が関与している顧客に、白色を勧めることはほぼありません。

また、青色申告では、家族に仕事を手伝ってもらって、給料やアルバイト代を払った専従者の給料も認めてくれますしね。記帳が面倒だという方は、ぜひ「マルナゲ」を利用して少ない費用で青色申告をしていただき、皆さんは仕事に専念する。煩わしいことはもう「カルク」で済ますというのがベストな選択だと思いますよ。


宮脇:序盤からずいぶん、PR色が強くないですか?(笑) ただ、確かに青色申告をいきなり誰の助けもなしに行うのは、個人的な経験から言ってもなかなか難しいですよね。

青色申告では赤字を繰り越せるというメリットも

宮脇:たとえば、駆け出しのライターですと、1年目で100万円くらいしか稼げなかったという場合、青色申告ってちょっとハードルが高いかなと感じる人もいると思うんです。逆に2年目で1,000万円稼ぎましたということになると、それは青色にしないと損なのかな……と思うのですが、その辺りの境目はいかがでしょうか?

 

税理士の伊藤さん: 収入の額で青色か白色かを選ぶということは、あまり意味がないと思いますね。いずれにしても青色申告の方が絶対にお得。100万円の収入があったとしたら、65万円の控除を引き、あとの35万円を経費で落とせば、税金がゼロになります。それから、今は白色申告も記帳する義務があるので、もし記帳していなくて領収書などもきちんと提示できなければ、追徴課税されることがあります。

 

税理士の大野さん:私も同じ意見で、収入の基準は特にありませんので、収入の低い人は逆に青色申告された方がいいと思います。青色申告の特典で、もし赤字が出たときは、翌年以降3年間は赤字を繰り越すことができる優遇措置があります。

たとえば、2016年に100万円の赤字が出たとします。しかし、翌年100万円の黒字が出た場合は、100万円に税金がかかることになりますが、青色申告をしていれば、前年の赤字100万円を差し引いて利益はゼロ。つまり税金がかからないことになります。翌年儲かったらそのマイナスを相殺できますし、もし翌年儲からなくてもさらに翌年と、最長3年間繰り越しができるんです。

 

宮脇:それは、確定申告に慣れていないフリーランスだと分かりづらい部分ですよね。皆さん、これを機会に是非青色申告を検討してみましょう。z

ネットビジネスの収入も税務署には筒抜け?

宮脇:ところで最近、私の知り合いのフリーランスの人のところに、相次いで税務調査が入っているんですけど、年齢が関係するのかなと思って。

 

税理士の伊藤さん:年齢は関係ないと思いますね。以前でしたら現金商売が狙われていた時期があるんですが、最近の傾向では売り上げ漏れのない報酬料金をもらっている人をターゲットにするのがなんとなく増えてきたなぁという印象を私は持っています。商売してる人が減ったのもありますが。

あと、税務署は6月末が期末で、1月から6月まで、7月から12月までの納税者への接触件数のノルマみたいなものがあります。これだけの納税者と接触して、きちっと間違いを正しなさい、正しければ正しかったと証明しなさい、と。税務署も売り上げが正しいか間違っているかを探すよりも、経費が間違っていないかを調べるほうが簡単なんでしょうね。


宮脇:ネットでブログをやっていて、いまいち収入が不透明だけれども、結構稼いでいる人が出てきています。そういう人は狙われやすいんでしょうか?

 

税理士の大野さん:私の知り合いの会社役員の娘にある日、税務署から呼び出しがあったんです。ネットビジネスで収入が300万円から400万円くらいあったけど、申告していなかったみたいで。

なので、税務署へ行って、「経費がどれだけあるか分からなかったので申告していませんでした。私の責任なので、なるべく少ない金額で申告したいと思いますので何とかしてください」と言って、頭を下げなさいと伝えたんです。税務署もどれくらい経費がかかっていたのかというのを認定するのは難しいのと、頭を下げられるとやはり職員も人の子ですから、次からはちゃんと申告してくださいね、と。今回は追加修正申告の形で済んだことがあります。

ネットビジネスも全部チェックが入っていますからね。海外との取引も専門官が税務署にいますし、そういった収入は支払調書も出ているので全部ガラス貼りになっています。なので、ごまかしようがないんです。いい加減な申告もしくは申告をしていなかったというと、いつか呼び出しが来ると思いますよ。

 

税理士の伊藤さん:今後はマイナンバーも絡んでくると思います。実際に稼働するのは5~6年後だっていわれていますが、そのころには支払調書がマイナンバーと紐づけられ、みなさんの収入は全部税務署に把握されているかもしれません。確定申告はきちんとやる。当たり前のことですが意識したほうがいいですね。

Interview
大野輝人さん
大野輝人さん

F&Mパートナーズ税理士法人、大阪本社代表社員。税理士、資産運用アドバイザー。1953年生まれ、東大阪市出身。1983年に税理士試験合格。合格科目は、簿記、財務諸表論、所得税法、相続税法、固定資産税。1984年近畿税理士会吹田支部登録。租税訴訟学会近畿支部会員。最近では生命保険会社などで事業承継対策を中心にセミナーの講師を務める。

Writer Profile
末吉陽子
末吉陽子

編集者・ライター。1985年、千葉県生まれ。日本大学芸術学部卒。コラムやインタビュー記事の執筆を中心に活動。ジャンルは、社会問題から恋愛、住宅からガイドブックまで多岐にわたる。
▼公式サイト
http://yokosueyoshi.jimdo.com/

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