通訳の収入、ギャラの鍵を握るのはフリーランスの経験年数

異なる言語を話す人同士のコミュニケーションを手助けする「通訳」。近年、訪日外国人も増えていることから、需要が高まっている仕事の一つです。ハイレベルな語学力が必要なのはもちろんのこと、企業との商談から学術的な会議、政治的な交渉など案件も幅広く、さまざまな能力が試される職業でもあります。

 

そこで、会議通訳者の大竹純子さんに、通訳の道を選んだワケや仕事の醍醐味、そして気になるマネー事情などについて話を聞きました。

40代で異業種から通訳に転身

――大竹さんは、大学卒業後は金融機関にお勤めだったそうですね。

私は18年近く金融機関 で働いていたのですが、40代になった頃、ハードワークと親の介護で体調を崩してしまったんです。退職後、介護の毎日に気持ちがどんどん後ろ向きになってしまって……。それで、何か勉強したいと思ったときに、英語だなと。外資系の企業に勤めていたので、会話や文書は基本的にも英語でしたが、なにしろ忙しくて、きちんと勉強する暇がありませんでした。そこで、もう一度英語の勉強をしたくなって、介護をしながら通訳の学校に通うことにしました。

 

実践中心の学校だったので、突然「結婚式の司会の通訳を練習してみましょう」というお題のもと授業をするのですが、まったく言葉が出ないんですよね。まがりなりにも英語を使って仕事をしていたのですが、あらためて表現力の豊かさに乏しいことを思い知らされましたね。

――通訳の学校に通われた後に、社内通訳として働き始められた。

3年間学校に通った後、最初は外資系のコンサルティング会社で社内通訳として働きはじめました。実績がないなかで、最初からフリーランスでは働くのはかなりハードルが高いですから。

わずか30分の通訳を完璧にこなすためには30時間の準備が必要

――日々どのようなスケジュールでお仕事されているのでしょうか?

案件の依頼状況によって本当にさまざまなのですが、たとえば今週は官庁や新聞社が主催している会議、美容整形と鉄道のセミナー、その後飲料会社の重役会議に出席という具合です。

 

ちなみに、よく「通訳は言葉だけ訳せばいいんじゃないか」とおっしゃる方も多いのですが、それぞれ専門的な言葉を調べて、しっかり準備する必要があります。たとえ30分の通訳でも30時間の準備をする心づもりが必要です。慣れてくると準備にかける時間がだんだん減ってはきますが。そうした準備の時間もスケジュールに組み込んでいます。

――案件の依頼はどのようにくるのでしょうか?

普通は、通訳を斡旋するエージェント会社からの依頼が最も多いです。駆け出しの人は100%といってもいいくらいではないでしょうか。クライアントは通訳者を探す術がないので、ほとんどエージェント会社を利用します。私が登録している会社は、3,000人ほど通訳者が登録をしていますが、実際に稼働しているのは数百人くらい。仕事の依頼がきた段階で、コーディネーターが通訳者を選んで依頼をかけます。

『通訳・翻訳ジャーナル』2014年夏号/イカロス出版

――報酬はどのように決められていますか?

通常は、最初にエージェントと通訳者の間で料金設定がされているので、それをもとにベテランや新人など、キャリアに応じてAクラスからEクラスまで報酬帯が分けられているようです。

 

料金設定は特別決まったものはないようですが、通訳向けの専門誌によると、フリーランス経験が重視されるようです。通訳業界で認知されているような最高ランクのAクラス(フリーランス歴10年以上)の通訳者で1日あたり6万円から7万円くらいです。フリーランスの歴がほとんどなく、社内通訳で2年から3年ほど経験を積んだEクラスだと、2万円から3万円くらいがボリュームゾーンのようですね。

――何が報酬の差を分けているのでしょう?

フリーでどれだけ経験を積んでいるかどうかだと思います。たとえ社内通訳を長く経験していても、あまり報酬には反映されない傾向にあるのかなとは感じています。「フリー通訳者として長年キャリアを築いてきた人=信頼できる人」と評価されるようなんです。

 

ただ、たとえばAクラスの一番安い報酬 の人と、Bランクの一番高い報酬の人だと、後者の方が高い場合もある。一応、フリーの経験年数よりも、実力が認められることもあるようです。

 

ちなみに、私が社内通訳からフリーになったのは3年前ですが、経験はあってもエージェントに登録したときは、やはり低い報酬で設定されてしまいました。個人的には、パフォーマンスで報酬を決めればいいのではと思うのですが、とはいえその実力をどうやって認めるかというと、明確な基準があるわけではないので難しいのかな、と……。

通訳は語学力だけでは勤まらない精神的にハードな職業

――通訳は、基本的にその場で言葉を訳していくことになると思いますが、ミスが許されないだけあってプレッシャーも掛かりそうですよね。

 

そうですね。「同時通訳」はブースに入ってイヤホンとマイク越しに淡々と通訳していきますが、特にプレッシャーを感じるのは話している人の側に付いて通訳する「逐次通訳」です。

 

たとえば、英語が分かる日本人が大勢参加していて、皆さんは英語も分かっていらっしゃるようなパーティー。そんな皆さんの前に立って外国の方のスピーチを日本語に訳すわけです。これはもう緊張ですよ。その上、突然何を言い出すかは予測不能ですから。常に頭をフル回転して言葉を絞り出しています(笑)。

――では、スキルアップのために、どのような勉強をされているのでしょうか?

毎日が勉強ですが、どんなに知識があっても、どんなに準備しても、結局のところ口から言葉が出てこないことにはダメなので、言葉を出す訓練をしています。私は担当する案件に近い内容の英語の記者会見映像をYouTubeで探してきて、音声を聞いた後、即座に復唱するシャドーイングしています。

――通訳必須のアイテムはどのようなものでしょうか?

経費でも計上しているのは、電子機器系ですかね。「簡易通訳機器」というのがあって、マイクから無線で音声を飛ばすことができるので、これさえあればどこでも通訳の仕事ができます。また、「電子辞書」これには絶対にお金をかけます。あと「イヤホン」も品質のいいものを使っています。音質も最高ですし音漏れがなくて優秀です。あとは「タイマー」です。これで測って10分か15分でパートナーと交代しますから、同時通訳者にとっては必須アイテムです。

――依頼者の側に付いて通訳するとなると、相応の気配りも求められると思うのですが、「これは気をつけている」ということはありますか?

非常に気を使うのは服装です。絶対に今日のようなピンクは着ません(笑)。仕事のときは、紺・黒・グレーが基本で、たまに白を着るくらい。それは黒子に徹するという通訳者としてのプロ意識でもあり、クライアントに対する気遣いでもあります。ただ、いつも落ち着いた色を着ていると自分らしさが失われるような気がするので、週末はピンク・赤・黄色といった好きな色の洋服を着ています。

――では、最後に同時通訳のやりがい、魅力について教えてください。

「完璧にできる」ということがないので、常にもっと上手くなりたいと思えることがやりがいなのかなと。また、金融機関 にいたときに「ありがとう」と言われたことはまったくなかったのですが、通訳になってからクライアントから「助かった、ありがとう」と言われるようになりました。感謝をされるということに、喜びを感じています。

Interview
大竹 純子さん
大竹 純子さん

日系証券会社に就職した後、米国ペンシルベニア大学経営大学院・ウォートン校にてMBAを取得。帰国後は、外資系投資運用会社でアナリスト、ファンドマネジャー、調査部部長として、日本株に関わった後、通訳者に転身。米国の金融機関及びコンサルティング会社で社内通訳を経験し、2014年7月からフリーランス通訳となる。得意分野は金融、経済、エネルギーなど。日本会議通訳者協会・副会長。
▼日本会議通訳者協会
http://www.japan-interpreters.org/find-interpreter/junko_otake/

Writer Profile
末吉陽子
末吉陽子

編集者・ライター。1985年、千葉県生まれ。日本大学芸術学部卒。コラムやインタビュー記事の執筆を中心に活動。ジャンルは、社会問題から恋愛、住宅からガイドブックまで多岐にわたる。
▼公式サイト
http://yokosueyoshi.jimdo.com/

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