毎年2~3月は確定申告シーズン。各種会計サービスによって確定申告書の作成は簡易になりつつあるとはいえ、わからないことがあった際に気軽に相談できる機会は少なく、それを調べるだけでも一苦労です。
会計サービス「カルク」を提供するエフアンドエムでは、定期的に確定申告の勉強会を実施。業種ごとに抱えがちなお悩みに沿って、確定申告でおさえておくべきポイントや税務調査の実態、節税について解説していきます。今回は、通訳者向けに開催された勉強会をハイライトでレポート。確定申告に精通した講師による講義の一部を紹介します。
1円でも事業収入があれば記帳は義務! 帳簿がないと高額な罰金の対象に
講師を務めるのは、エフアンドエムで延べ約700回の勉強会を行ってきた松木淳。まずは昨今の“確定申告の変化”の解説からスタートしました。
「2014年1月、事業収入が発生しているすべての個人事業主に『記帳・記録保存制度』が課されるようになりました。それまでは、前年度の事業所得が300万円未満の場合や、白色申告は帳簿をつける必要がありませんでした。しかし、『記帳・記録保存制度』の義務化以降は、毎日帳簿をつけて、それを7年間保管しなければいけなくなりました」(松木 以下同)
もし税務調査が入った場合、申告内容の正当性を示す帳簿を提出できないと、最悪の場合は税率の高い罰金を払わなくてはなりません。
「正しく記帳するためには、まず確定申告に必要な書類をきちんと集めておくことです。通訳者の皆さんの場合は、エージェントから支払調書を受け取っていると思いますので、それで収入を証明できます。これに加えて、経費の『領収書、レシート』などの証明書類を必ずもらっておくことが大事。それを、『交際費』『交通費』『消耗品費』『通信費』『修繕』など、適切な科目に仕訳をしてください。さらに、それぞれの区分について『日付』『金額』『相手先』『理由』を記入します。これを1年、毎日行っていただく必要があります」
たとえば交際費の場合は、相手先は誰でとどんな理由で使ったのかまで記帳する必要があります。365日続けることに負担を感じる人もいるかもしれません。しかし、帳簿を義務としているのには、それなりの理由があるようです。
税務調査対策に確定申告で意識すべきこと
「税務署がなぜ帳簿をチェックするかというと、日本は自分で所得を算出して納税額を決定する『申告納税制度』を採用しているからです。帳簿は、提出された確定申告書に誤りがないかをチェックをする資料。その提出された確定申告書に不明瞭な点などがあると、税務調査で適正な確定申告を促すことになるのです。税務調査が入った際には、帳簿と保管してある領収書・レシートをすべて提示する必要があります。確定申告書に記載した経費を証明するものがないとなると、追加の税金と罰金を支払わなくてはいけません。そのため、帳簿付けは税務調査対策のために必須といえるのです」
実際にあった事例で、年収300万円の個人事業主のもとに税務調査が入り、80万円近く追徴課税される羽目になったこともあるそう。そんな悲劇が我が身に降りかからないためにも、確定申告で対策すべきことは次の8項目です。
- 領収書・レシートを必ずもらう
- 適切な勘定科目への仕訳
- 定期的な帳簿作成
- 帳簿書類等の保管
- 青色申告に対応した記帳
- 節税や税制改正等の情報収集
- 確定申告書の提出
- 税務調査は必ず入るという前提での準備
なかでも、税務調査の対象になった際に“どのように対応するか”は重要なポイントなのだとか。
「税務調査がどのように行われるかというと、『税務調査呼び出し文書』 が突然届いたり、税務署から突然電話がかかってきたりすることがスタンダードです。税務調査では必ず雑談をして場を和ませます。だからといって油断はできません。たとえば、『土日はどうされているんですか?』と聞かれて『土日は休んでいます』と答えたとします。税務調査官はその発言をきっちりメモし、もし土日に発生した領収書やレシートがあった場合、その矛盾をついてきます。雑談から皆さんの情報を収集して頭に入れておくのも、税務調査ではよくある話なのです」
通訳者は税務調査で狙われやすい! その理由は“支払調書”の存在
もちろんすべての個人事業主のもとに税務調査が入るわけではありません。2011年(事務年度)に9万9,000件だった税務調査件数は、2014年(事務年度)には6万8,000件にまで減少しています。
この理由について、「国税通則法で税務調査にまつわる法改正が実施され、税務署内の事務手続きが煩雑になったからです」と松木。そして、この法改正を機に通訳者が税務調査に入られる確率が高まったと言います。
「税務調査の目的は、売り上げが合っているかどうかを確認することですが、その難易度が高い業界も存在します。たとえば、飲食店などは現金商売なので、確認するための調査にとても長い時間がかかります。しかし、税務官にも税務調査件数のノルマがあるので、消化しないといけません。そこで、対象になりがちなのが『支払調書』を受け取っている個人事業主です。通訳の方は、仕事を斡旋しているエージェントから『支払調書』をもらっていると思いますが、支払調書があれば、売上は1円もごまかすことができません。そのため、税務官視点で見れば、売上の確認作業に要する時間が大幅に短縮できるわけです。そこで、支払調書が発行されている業界の人を狙おうというのが、現在日本全国の税務署で起こっている傾向です。結果、通訳者の皆さんは狙われやすい業界にいる、ということになります」
支払調書を受け取る個人事業主でいえば、イラストレーターやライター、カメラマン、ITのエンジニア、モデルなども同様です。税務調査の総数が減ったとはいっても、個人事業主100人に1人の割合で実施されているのですから、決して少ない数字ではありません。
また、税務調査の厳しさは決して侮れないのだとか。
「『反面調査』というものがあって、これが結構恐ろしいのです。税務署が経費の正当性を確認するために、皆さんが取引していらっしゃるエージェントや銀行、スーパー、コンビニまでも調査します。たとえば、皆さんがコンビニで事務用品として、ボールペンを購入したとします。これは経費ですが、同時に缶ビールも一緒に購入して、明細が分からない領収書にして提出したとします。しかし、税務署は切り直した領収書からコンビニで購入された明細を照会することができますので、内容も丸わかりになるわけです」
また、もしレシートを保管しておく場合でも、経費の対象になるものだけにマーカーをつけておいた方が、税務調査の際に好印象を与えることができるそうです。戦々恐々の税務調査ですが、正確な記帳さえしておけば所得税の還付もきちんと受けることができます。
「しっかりした帳簿をつけることで国からお金を取り戻すことためには、『経費の計上漏れをなくす』『控除の受け漏れをなくす』こと。この2つが節税方法として大事なポイントです」
「税務調査は都市伝説だと思っていた」……勉強会参加者の声
あっという間に1時間が過ぎた確定申告の勉強会。専門用語も分かりやすく噛み砕きながらの丁寧な解説は、参加者にも好評だったようです。その後、行われた会計についての相談会では、「一人で飲食した物は経費で認められない?」「税務官の資質、経験値などによって調査内容も変わるの?」などなど、多くの質問が寄せられていました。
最後に、勉強会の感想について、参加者に聞きました。
「実は、通訳者のなかで税務調査は都市伝説みたいになっていて、『収入が1,000万円を超えたら税務調査が来た』や『駆け出しなら大丈夫』といった特段根拠がない噂レベルの話が信じられています。でも、今回税務調査の目的や対象について明確に理解できたので、とても良い機会でした。支払調書があることで狙われやすいなんて思ってもみなかったことなので、そうした情報をいただけたのが良かったです」(Aさん・女性)
「「『ふるさと納税』の仕組みを知らなくて、寄付だと思わずに納税だと思っていました。今日初めて仕組みを知って、講師の方もとても薦めていらっしゃったので、きちんと学べて良かったです」(Bさん・男性)」
今回は通訳者団体向けに実施された勉強会でしたが、確定申告に関する基本情報はほかの業界でも同じこと。確定申告は個人事業主にとって、昨年1年間の収支の “通信簿”ともいえる存在。今年1年の働き方を考えるためにも、大変でもしっかりと行っていきましょう!