40代後半で収入激減……上田惣子さんが『自営業の老後』で実感したお金との向き合い方

25歳からフリーのイラストレーターとして活躍してきた上田惣子さん。締め切り厳守、依頼は断らないという職人のような姿勢でコツコツと仕事をしてきたにも関わらず、47歳頃からじわじわと仕事が減っていったそうです。

 

貯蓄が底をつき始めたのに、仕事がない……。さらに年金も未納状態だったため、老後への備えがないまま50歳を迎えることに。将来に対する不安で眠れぬ日々。そんなとき、旧知の編集者から持ち掛けられた企画テーマが「自営業の老後」でした。

 

本書の取材を通してお金について学んだり、実践をしたりすることで、上田さんのお金や仕事への意識がどう変わったのか、お話を聞きました。

気付けば年収がピーク時の1/3に……

――ずっと真面目に仕事をしていれば、フリーランスでも仕事がなくならないと思っていたので、50歳近くなってお仕事が激減したエピソードは私にとって衝撃的でした。

私自身、減ると思っていなかったんですよ! 25歳でフリーのイラストレーターとして仕事を始め、最初の2年間はみっちり営業しました。最初は10件、20件営業して、ようやく1件受注できる程度。でも、徐々に案件も増えていきました。このとき行った営業の“おつり”で、そのあと20年食べていけたんだと思います。

 

その後、40歳で乳がんになってしまい、治療に専念するため仕事を1年間お休みしたのですが、病気休養後に「復帰しました!」と年賀状を送っても以前のような発注は得られず……。あとから、とある編集者の方から「年賀状なんて見ないよ」と言われてしまいました。そうこうしているうちにじわじわと仕事が減っていき、年収はピーク時の1/3にまで落ち込んでいました……。

――今回のコミックエッセイ『自営業の老後』は編集者さんと会って話したことでつながったそうですね。

一昨年、久しぶりにお会いしたとき、思わず愚痴を言ったら「いつも忙しいかと思っていました」と言われて驚きました。実際は、ヒマでヒマで仕事くださーいって感じだったんですが……。

――フリーランスだと、愚痴を外部の人に言うのは勇気がいりますよね。

そうなんです。ずっと人に言えなかったし、言わないようにしていました。でも心が折れてしまって、つい。だけど、こうした泣き言は会ったことがある人にしか言えないですよね。この書籍の担当編集者さんに会ったときも、昔のよしみでグチグチと愚痴を言ってしまいました。それによって「自営業の企画」のテーマをいただけ、ちょうど悩んでいた老後への不安と向き合うことになりました(笑)。

生涯収支を出して仕事のモチベーションアップ!

――上田さんは、生まれてこのかた年金を払っていないと書籍の中にありました。その状態から老後への備えというと、なかなか大仕事というイメージがあります。

年金未払いについては後ろめたさを感じていました。ずっと言い出せずにいて、最後に爆弾投下のような感じで担当編集に告白しました。

 

それで年金の専門家に取材に行ったところ、「年金機能強化法」(年金受給資格を得るための納付期間が25年から10年に短縮された法律)が2016年11月にできたことを教えてもらって。10年払えば年金がもらえることがわかり、専門家のアドバイスを受けてすぐさま手続きをして、未納分の88万円の年金を納めました。年金だけで老後の不安が解消されたわけではなかったですが、気持ちも軽くなったので、払って本当によかったです。

――年金の支払いを始め、老後に備えたさまざまな取り組みをされていましたが、一番大変だったことはありますか?

90歳までの生涯収支を出したところですね。これは、公認会計士の林總(はやし・あつむ)先生の著書『正しい家計管理』(WAVE出版)と『老後のお金』(同)をもとに計算しました。

 

当時あまり忙しくなかったのが幸いして、まとめて取り組む時間がとれたのですが、それでも家計を丸裸にするのに2週間かかりました。おそらくフルで仕事がある場合、もっと時間がかかると思います。私は夫と二人暮らしで財布は別会計なのですが、この作業をするにあたり夫にも家計簿を出すように説得しました。

――具体的にはどのようなことをしたのでしょうか?

まず、自分が今後どういう暮らしをしたいのか、家の購入はどうするのかなど、イベントや生活費を予測して支出を調べます。そして、収入のマックスとミニマムを予測し、想定した支出に対し足りるのか足りないのかを判断します。

――収入はどうやって予測したのですか?

今がマックスで、このあと緩やかに下がっていくと予想しました。これ以上上がることは、もうないかなと。

 

とにかく70歳までは世帯年収150~200万円を「パートをしてでも死守する」と決めました。プラス夫の年金や保険、貯金で90歳まで暮らしていく計算です。

――150~200万円なら、がんばれば死守できそうな金額ですね!

本当は70歳までイラストで食べていけたらいいけど、それはなかなか難しいですよね。実はテレビで70歳の編集者さんを見て、「この年齢までバリバリできるんだ!」って夢を見てしまっていたんです。でも、その編集者さんは特異なケースだからテレビにまで取り上げられているんだ、と後から気づきました。

――生涯収支を出して、良かったなと思うことはありましたか?

人生の計画を具体的に立てたことで、いくつまでに、自分が何をしておくべきかがクリアになったのは良かったですね。漠然としたお金への不安もなくなりましたし。また、計画が明確になったことで、働くモチベーションもアップしました! だけど、この収支を出すことはすっごく大変で、2kgも痩せました(苦笑)。

民間の保険を見直し、公的な保険に優先的に加入

――年金だけでなく、保険も整理されたんですよね。

若い頃、知人に勧められるままにたくさん入っていたので、これを機に整理しました。私は年金保険、養老保険、こくみん共済、終身保険に加入していたのですが、終身保険以外は解約しました。

 

また、民間のではなく、公的な社会保険に優先的に入った方が節税にもつながるとアドバイスを受け、「小規模企業共済」や「付加年金」「確定拠出年金」に加入しました。

お金への不安が払しょくされ、仕事との向き合い方に変化も

――今回の書籍を機に、大きく変わったことはありますか?

お金のことで気が休まらないということがなくなり、気持ちよく眠れるようになりました。それまでは、不安で夜中に起きてしまうこともありましたから……。

 

今回、自分の無知さとだらしなさを思い知りました。仕事優先になってお金が後回しになってしまっていたんです。若い頃にもっと学んでおけばよかったです。保険だって、無駄に加入することはなかったのですから。

――ではもし、タイムマシンがあったら、若い頃の自分に言いたいことはありますか?

28歳くらいに戻ってお金の大切さを教えたいですね! 当時は仕事があってお金もあるばかりに、美容や健康関連のアイテムを買い込んでいたんです。本来は貯め時なのに使ってしまうから、後から苦しくなっていたんですね。今は無駄に使わないように、夫の会社で財形貯蓄をしてもらっています。

――最後に、今回の経験を通じて仕事への向き合い方にどんな変化があったか教えてください。

仕事が激減したときは、ネット経由でかなり低いギャランティの仕事も価格交渉することなく受けていました。今は自分にどれだけ必要なのか先々も見通せているので、不安から目の前の仕事を手当たり次第受けまくることはなくなりました。日銭を追うか、価値を追うか。価値を追う仕事ができるようになったのは、大きな変化だと思います。

 

誰でもやりたい仕事があると思います。でもお金の問題があると、視界が狭くなって価値に目がいかなくなってしまいます。今回は書籍づくりを通して、真人間にしてもらったうえに、視界もクリアになることができました。

 

妄想レベルですが、今後はもっと人と関わるような仕事もしてみたいですね!

Interview
上田惣子さん
上田惣子さん

イラストレーター歴25年。お金まわりの知識とセンスが欠落しており、将来設計をしないまま50代に突入。共著に『マンガ 女のお金の超常識』(WAVE出版)、『マンガ 読むだけでチョットよくなるあなたの英会話』(実業之日本社)などがある。

Writer Profile
ミノシマタカコ
ミノシマタカコ

WEB企画・ディレクション・運営業務などを経験し、2012年より自営業に。現在は主にライター/WEB編集として活動中。狛犬愛好家。

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