お笑い芸人として『M-1グランプリ 2005』のセミファイナリストに選ばれ、『エンタの神様』など人気番組への出演も果たした三好秀典さん。現在は、フリーランスのお笑いコンサルタントというユニークな肩書きで、個人・法人向けのセミナーやコンサルティングなどで幅広く活動しています。
「どんな人でも笑いがとれる世の中にしたい」というアツい想いを胸に秘める三好さん。なぜ、笑いで食べていこうと決めたのか、仕事との向き合い方について伺いました。
ニート生活を打破するべくお笑いの門を叩く
――三好さんは、高校卒業後のニート生活を経て、お笑い芸人養成所へ入所されたそうですね。もともとお笑いへの関心は高かったのでしょうか?
子どもの頃、クラスの人気者になりたかったのですが「勉強ができる」「顔がかっこいい」「足が速い」の王道は早々に諦め、第4の選択肢「面白い」を目指したんです。周囲を笑わせようと毎日頑張っていましたね。でも、芸人になるつもりはありませんでした。
――いつから芸人を意識するように?
ニート生活を送っていた頃ですね。高校を卒業するも、やりたいことがなくてモヤモヤ悩んでいる毎日が続いていたんです。そんなある日の深夜に、ふとテレビでお笑いのネタ番組を観てゲラゲラ笑ったんですよね。へこんでいる人間を元気にするお笑いのパワーってすごいなと思い、大学を中退した中学の同級生を誘ってお笑い芸人の養成所へ入ることにしました。
――その同級生と「ガブ&ぴーち」を結成、M-1グランプリのセミファイナリストに選ばれるなど躍進しながらも、コンビを解消されたそうですね。
そうなんです。ちょっとずつ相方と意識の差がうまれてしまったというか……。たとえば、相方は芸人のかたわら、運送業のアルバイトで月30万円近くもらうようになったんです。かたや僕は毎月数万円の稼ぎ。時間があれば先輩のライブを見に行くとか、芸人として成功するために時間を使いたかったんです。ある日、改めて相方に何をしたいのか聞いたら「俺は笑顔より荷物を届けたい」と言われて解散することになりました。
――解散後、三好さんはどのような道を選ばれたのでしょう?
ピンでの活動や、構成作家に挑戦しようかとも思ったのですが、なかなか気力が沸かず……。なので、ひとまず芸人時代に生活費に充てるためにこさえた借金300万円を返済するべく、派遣の営業マンとして働くことにしました。
ブラックな職場を笑いで変えたことが人生の転機に
――現実的な選択をされたのですね。
はい。ただ、職場がブラック企業だったんです。
――どんな会社だったのですか?
僕が入社したての頃は、「数字上げられなかったら殺すぞぉ!」なんて怒号が飛び交うような会社だったんですよね。社内の空気は最悪で、辞める人もびっくりするほど多かったんです。
――うわぁ……。
環境はかなり悪かったですけど、実のところその職場での経験が、いまの仕事につながってるんですよね。
――というのは?
職場の雰囲気を良くしたいと思って、昼休みに漫談したり、モノマネしたり、営業あるあるをしゃべったりするようにしたんです。そしたら、みんなが少しずつ笑うようになって、「三好ちゃんのおかげで職場が明るくなった」「三好ちゃんがいる日に出勤したい」と言ってくれる人も。結果的に、自分の部署の離職率の改善に貢献していました。
――もはや笑神様! すごいですね!
プロの芸人を目指す養成所は「猛者が笑いの天下を取るために集う場所」でしたが、そこまで極端ではなくても「ちょっとした笑いで毎日が楽しくなる」って気付きました。あと、社内で一言スピーチをする習慣があったので、「笑いをとれるスピーチ術を教えてほしい」と請われるようになりました。それで、くすっと笑かす話し方のコツや、上司からの無茶振りへの対処法などを教えるようになったんです。
――無茶振りへの対処法ですか。たとえば、どのように指導するのでしょう?
たとえば、「何か面白いことやれよー!」と言われ、上手く返せずに悩んでいたとします。それに対して、「無茶振りする方は相手が困ることを望んでいるから、まず『ちょっと止めてくださいよ~!』と困っている雰囲気を出してから、一発ギャグやモノマネをするといいですよ」とセオリーを教えるんです。
――なるほど。セオリーさえ分かれば、いろいろな場面で応用できそうです。
そうなんですよね。実際、普段の会話でも笑いをとれる社員さんが増えてきました。それから「休みの日に教えてください」と言われるようになり、会議室を使って3人くらいから笑いの講座をスタートしました。知り合いが知り合いを呼んで、いつの間にか20人くらいになっていましたね。
――それだけ成果を実感できる講義だったということですよね。それからお笑いコンサルタントとして独立を考えるように?
そうですね。ある日、講座に弁護士や会計士、税理士をクライアントに持つ中小企業診断士の方が参加してくださったのですが、「士業は資格を取って終わりではない。稼げるかどうかはコミュニケーション能力に左右される」とおっしゃっていたんです。
――厳しい現実ですね。
僕は、コミュニケーションは「自分の言いたいことを相手の聞きたいことに変えられる技術」だと思っているんです。そして、その技術は笑いを通して磨かれるんじゃないかなと。それで、ものは試しと士業向けの「ウケる自己紹介講座」をつくって開催してみると好評で。これって仕事になるかもと思って、商品開発のことを学ぶためビジネススクールに通い始めました。
――派遣社員をしながらですか?
はい。借金も返済したので、自己投資だと思って30万円払って受講しました。スクールを学んだことを活かして、「僕が1年間付きっきりで、笑いをとれる人へとプロデュースします」という趣旨の商品を25万円で販売したら10人に売れたんです。これなら食べていけるかもしれないと思って独立を決めました。
好きな人限定の仕事だから“無制限で会えるコンサルタント”が成り立つ
――現在、お笑いコンサルタントとして、どんな活動をメインにされているのでしょうか?
ひとつは、企業向けの研修やコンサルティングで、営業が不得意な社員さんに営業トークのコツをお伝えするような内容です。もうひとつは、個人向けのコンサルティングです。いずれにしても、お笑いレベル20点の人を60点にすることを目標にしています。もっというと、日本に“中途半端に面白い人”を増やしたいんですよね。
――中途半端……それはなぜでしょうか?
もとは養成所時代の体験に辿りつくんですけど、入所時の挨拶で「引きこもりだったけど、変わりたいと思ってお笑いの世界にきました」と言った同期がいたんです。そしたら先輩から「ここはつまらない人を面白くするところじゃなくて80点のやつを100点にするところなんだ!」とゲキが飛びました。
もちろん売れるお笑い芸人の育成は素晴らしいことですが、僕は中途半端な面白さでもいいから、誰かを笑わせて喜ばれる人を増やすことも意味があるんじゃないかなって思うし、そこに自分が介在する価値を感じたんです。
――どんなことを期待して、三好さんのコンサルティングを受ける人が多いのでしょうか?
面白くなりたい人、笑いを仕事に活かしたい人の2タイプが多いです。仕事に活かす例でいうと、たとえば弁護士さんが主催していた「遺言書作成セミナー」をコンサルティングするといったケースですね。正直、めちゃくちゃ退屈な内容だったので「笑って学べる遺言書作成セミナー」と名付けて、構成もお手伝いしました。他にも「抱腹絶倒! 確定申告セミナー」なども手掛けました。
――すでにタイトルが面白いですね。
真面目なテーマなので難しい話になりがちなんですよね。でも、面白くしないとお客さんも集中が持たない。とりわけ無料のセミナーともなると、内容の20%くらいしか頭に残ってないんじゃないかな。それなら残り80%は楽しませた方が、印象に残りますよね。よく伝えているのは、「放送大学の法律講座じゃなくて、『行列のできる法律相談所』を目指した方がいいよ」ということ。その方が人も集まるし、楽しんでもらえるはずです。
――とはいえ、三好さんのメソッドを習得するには、それなりに時間がかかりそうな気も。
そうかもしれないですね。なので、セミナーについてもテーマや内容を教えてもらって、僕が台本をつくるようにしています。話し方もチェックしますし、僕がセミナーの前説をすることもあります。まずは、笑いをとるという成功体験が大事なので、型をつくってゼロからイチに伸ばさないと。イチ以上にするうえでも、個人向けのコンサルティングは会う回数も時間も無制限で設計しているので、いくらでもフォローしますけどね。
――すごく心強いですが、報酬を時給換算すると割に合っていないこともあるのでは?
あまりお金儲けは考えていないかな。というか「お客さん=友だち」の感覚。嫌な人の依頼は受けずに、好きな人ばかりを集めているので、僕自身無理してないんです。というのも派遣社員の頃は、勤務時間が終わるのをまだかまだかと待っていたのですが、それってつまらないじゃないですか。
――確かに、たった一度の人生なのにもったいないです。
でしょ? よく「食べられなくなる不安はないんですか?」と聞かれますが、「最悪アルバイトします」って答えています。極論、お笑いコンサルタントは仕事にならなくてもいいんです。あと、単価を上げようとか、年収を増やそうとかお金にこだわり過ぎたり、いまの仕事じゃないと絶対に嫌だとこだわりが強すぎたりすると、お客さんが見えなくなるんじゃないかなって。
――ちなみに収入は増えていますか? 減っていますか?
独立して3年ですが、1年目300万円、2年目400万円、3年目500万円と有り難いことに売り上げは増えてはいます。ただ、あまりお金に執着はないので、毎年500万円くらい資金があれば好きに生きれるなって感じています。とはいえ、さらにチャレンジしたいこともあるので、売り上げが増えればそこに使っていきたいですね。
――三好さんの自然体で仕事と向き合う姿は、フリーランスの理想というか、とても素敵です。ちなみに、これからチャレンジしてみたいこととは?
これからは企業の研修にたくさん携わっていきたいなと。社員さん向けにセミナーを開催すると「みんながあんなに笑っているところを初めて見ました」とよく言われるんです。人ってあまり知らない人には残酷になりがちですが、お互いに知り合うことで優しく接することができると思うので、「ウケるスピーチコンテスト」みたいなセミナーを企業向けに開発して、社内コミュニケーションのきっかけを提供したいですね。
あとは、僕がやりたいことをいつでも自由に発信できて、かつコミュニティのベースになるスペースを持つのはいいなと思います。どんな人でも笑いをとれる世界を広げていきたいです。