
「ホームパーティーで華やかな料理を出したい」「忙しくてご飯をつくる時間がない」、そんなときに活用できるうれしいサービスが出張料理です。ケータリングとは異なり、シェフ自身が食材を調達し、自宅をはじめキッチン設備のある場所で調理からサーブ、片付けまでをトータルで行ってくれます。
そんな出張料理を専門にしているのが、はっぴぃシェフさん。パティシエやフレンチレストラン、栄養士などを経てママ向け出張シェフとして独立しました。現在、年間200件以上の家で料理を振る舞う人気ぶりです。出張シェフを志すことになった理由や、収入にまつわる話まで、赤裸々に語っていただきました。
イラストレーターの道を諦め、調理師専門学校へ
――はっぴぃシェフさんは、調理師専門学校を卒業してから、飲食業界でキャリアを積まれていますよね。料理の世界に関心を持たれたのはいつ頃からでしょうか?
中学生まではイラストレーターになろうと思って、デザイン系の高校に通っていました。ところが同級生の技術力が高くて、自分の才能にも不安があったので挫折してしまったんです。就職先もなかなか見つからなくて悩んでいたときに、お菓子づくりが趣味だったこともあって調理師専門学校に進みました。
――専門学校を卒業されてからは、どちらに就職されたのでしょうか?
地元、岩手のケーキ屋さんでパティシエとして働きました。ただ、両親には反対されていましたが、上京して修行したいなと思っていたんです。なかなか実行できなくてグズグズしていましたが、お金が貯まったタイミングで東京行きを決意。上京後はレストランでパティシエとして働き始めました。それがきっかけで、料理に関心が向くようになったんです。
――料理人のどのようなところに惹かれたのですか?
パティシエは一つのことを黙々と追求することが多い仕事です。しっかり材料を量って、同じことをきちんと繰り返すことが大切。一方、料理人は新しい食材をどんどん取り込んで新しいものをつくることが多いので、これは楽しいなと。日々やるべきことが違うので、飽きっぽい自分の性格には合っていると思いましたね。
先輩出張シェフのアシスタントを経て独立
――最初から出張シェフを目指されていたのでしょうか?
それが、たまたまなんです。出張シェフをされている方と偶然知り合いになって、「自分の仕事を手伝ってもらえない?」と声をかけてくださりました。その方は出張シェフ以外にも、料理教室やレシピ提供など、幅広く活動されていたんです。アシスタントとして出張料理や料理教室があるときに専属でお手伝いをさせていただくようになりました。もしその方との縁がなければ、まったく違う仕事をしていたかもしれないですね。
――アシスタントは何年ほど続けられたのですか?
2年くらいです。同時期に仕事に役立てるため、栄養士の学校にも通っていました。卒業と同時にどうするべきか悩みましたが、出張シェフとして独立を決意しました。
――独立の自信がついたのは、なぜだったのでしょうか?
アシスタントをしながら自分でも出張料理を試していたのですが、割と反響があったんです。また、当時はmixiで料理教室の開催をお知らせしたら多くの人が集まったので、「こんなに反響があるなら、もう独立しちゃおう!」と。当時は料理の腕はまだまだでしたが、ニーズの存在を確信できたのが大きかったですね。
依頼件数が伸びず日雇いバイトで食いつなぐ
――独立後の仕事は順調でしたか?
実は、軌道に乗らずに模索していた期間も長かったんです。料理教室も開催していましたが、何だか空回りしてしまって収入も伸びず……。モニターやアフィリエイト、登録制の日雇いバイトもしながら、なんとか生活していました。
――その苦しい時期をどうやって乗り越えられたのでしょうか?
正直、心は何度も折れましたね。いろいろ迷って、すごく悩みました。勢いだけで独立しましたが、性格的にマイペースなところがあるので、少し挫折すると比例するように仕事も減ってしまう悪循環でした。
ただ、その期間があったからこそ、自分が何をやりたいか定まり、広報活動なども戦略的に行うようになりました。今こうして出張料理に重心を置くことができたのも、苦しい時期があったからこそだと思います。
ターゲットをママに絞ってから仕事がうまく回り始めた
――現在、ママ向け出張シェフに特化されていますが、そこに辿り着くまでにはどれくらいの時間がかかったのでしょうか?
約3年ですね。出張料理をしているなかで、一番喜んでくださったのはママたちでした。小さいお子さんがいらっしゃるので、外食が難しいということもあって、私が行くと「本当に来てくれてありがとう」と、すごく喜んでくださるんですね。頑張れば頑張るだけ、喜んでくださるので、とてもやりがいを感じたんです。そんな中で、さらにお子さんたちの野菜嫌いを克服してあげたい気持ち、食育をやりたい気持ちが目覚め、ママ向けの出張シェフとして活動していく方向に決めました。それからは口コミで広まり、依頼件数も安定するようになりました。
――はっぴぃシェフさんはカジュアルフレンチを得意とされていますよね。料理にはどんな特徴がありますか?
私は農家育ちということもあって、野菜が大好きなので、野菜をメインにした料理をお出ししています。なかなか手に入らない旬の産直野菜を実家や契約農家で調達して、素材の味を活かした優しい味付けにしています。盛り付けも華やかさを出すようにしているので、とくに女性は喜んでくださる方が多いですね。
気になる出張シェフの収入はどれくらい?
――出張料理の最低料金はおいくらで設定されていますか?
時間帯によってランチとディナーで分けていますが、どちらも1名あたり3,500円、4名から承っています。ただ、3,500円だと、かなりシンプルな内容になるので、料理のグレードを上げて5,000円から7,000円くらいのコースを注文いただくケースが多いですね。
――原価はどれくらいに抑えられていますか? また、必要経費はどのような項目でしょうか?
1名あたりの費用には、材料費だけでなく交通費も組み込むことがスタンダードなので、それも込みで原価は3割に抑えるようにしています。経費としては、調理器具と光熱費、広告宣伝費、車代です。車はリースで借りているのですが、野菜などの材料を運ぶために必要です。また、提携している仲間がいるので、規模が大きいときは業務委託で時給1,000円くらいを支払って手伝ってもらっていますので、それも経費に含めています。
――シーズナリティによって、売上に差がありますか?
結構ばらつきがありますね。この月が暇かなと思ったら忙しくなったり、昨年はこの月が忙しかったのに今年は暇だったり……。月単位ではなかなか波を読みきれませんが、良い月で40万円から50万円、悪いと25万円くらいですかね。レストラン勤務の時は月給18万円くらいで、拘束時間も相当長かったので、その頃と比較すれば今は時間が自由で好きなことができるので、独立して良かったと思います。
出張料理をもっとメジャーに! 組織化にも挑戦したい
――今後、どのようなことにチャレンジされたいか教えてください。
残念ながら出張料理って、まだまだ一般的ではありません。使い方がよくわからない方も多いと思うんです。現在、順調に依頼件数を伸ばしていますが、ブームに左右されるのではなく、もっと日常使いしていただけるサービスとして広めていきたいです。
出張料理をトータルでプロデュースをしたいと考えています。レシピを考え、スタッフを育成するところまでカバーできる環境をつくっていけたら良いなと思っています。