
※この記事は2020年12月25日に、税制改正にあわせ、内容を一部修正しました。
確定申告には、税金を支払うための手続きとしてのイメージが強くあります。しかし、確定申告をすることで税金が戻ってくる場合もあるのです。どのようなときに税金が戻ってくるのか、その仕組みや、還付金を受け取る際の注意点を解説します。
所得税の確定申告で税金が戻ってくる仕組み
個人事業主は確定申告をすることで、1月1日から12月31日までに発生した所得に対する、正しい所得税額、復興特別所得税額を計算します。このとき、支払う税金よりも、あらかじめ納めた所得税額、復興特別所得税額が多かった場合に税金が戻ってきます(=還付)。
所得税、復興特別所得税を前納するケース
(1)報酬などを受け取る際に源泉徴収(天引き)される場合
仕事に対する報酬などを受け取る際、所得税と復興特別所得税が原則的に源泉徴収されています。
<源泉徴収される報酬などの例>
- 原稿料
- グラフィックデザイン料
- 講演料
- スポーツなどの指導料
- 料理教室などの講師料
- 弁護士、税理士などへの報酬
- プロスポーツ選手への報酬
- 芸能人への報酬
これらの報酬は、謝礼や取材費などの異なる名目で受け取ったとしても、報酬の性質があれば源泉徴収の対象です。ただし、次のような例外もあります。
- 通訳の料金は対象となっても、手話通訳の料金は対象とならない
- 一定条件を満たす個人から報酬の支払いを受ける場合は源泉徴収されない
「一定条件を満たす個人からの報酬」とは、「従業員がおらず、給与や退職金の支払いがない」「従業員がいても、常時2人以下の家事使用人(お手伝いさんなど)だけに給与や退職金を支払っている」のどちらかに該当する個人からの報酬のこと。この場合は、報酬を支払う際に源泉徴収する必要がありません(ホステスなどへの報酬を除く)。
株式会社などの法人ではなく、このような個人事業主間の仕事で報酬を受け取った場合は、先方に確認のうえ、受け取った報酬のみを確定申告時の収入金額として計算します。
源泉徴収される条件や金額は、法律や通達で決められているため、国税庁の資料などで確認しましょう。
▼参考
国税庁ウェブサイト:平成29年版 源泉徴収のあらまし 第5報酬・料金等の源泉徴収事務
(2)予定納税する場合
予定納税とは、前年に一定額以上の所得税、復興特別所得税を納めた場合に、その年分の所得税、復興特別所得税の概算金額を前もって7月と11月に分割して納める制度です。
前年の所得税額から(1)の源泉徴収税額を差し引いて計算した所得税額、復興特別所得税額の合計額を基準(予定納税基準額)として判断します。この予定納税基準額が15万円以上の場合は予定納税をする必要があり、その1/3の金額を2期(7月、11月)分に分けて支払います。※災害減免法の規定適用は考慮していません。
つまり、以下の場合に還付を受けられることになります。
(所得税額+復興特別所得税額)<(源泉徴収税額+予定納税額)
実際の計算方法を例を挙げて解説します。
例)フリーランスのライターで、収入400万円、必要経費200万円、所得控除70万円、源泉徴収税額40万円の場合
※わかりやすくするため、キリの良い金額にしています。実際の源泉徴収税額や認められている必要経費額などとは異なります。
※青色申告、配当控除、外国税額控除などの各種制度は考慮しません。
収入にはライターとしての原稿料だけではなく、編集や講演などを行っている場合には、それらの報酬も含まれます。
必要経費には、交通費や取材時の謝礼、パソコン購入による減価償却費などが該当します。収入金額から必要経費を差し引いたものが「所得金額」です。
所得控除と課税所得所得控除は、扶養家族などの世帯構成や、生命保険の保険料支払いなどの個人的事情を考慮するための制度です。この金額を所得から差し引くと「課税される所得金額」が計算されます。
課税所得と税率課税される所得金額に所得税率5%を乗じると、6万5,000円です。この金額の2.1%に該当する1,365円が復興特別所得税額となり、合計は6万6,365円です。なお、所得税率は課税される所得金額により異なります。
※「所得税の税率」をもとに作成(出典:国税庁)
1円も源泉徴収されていなかった場合は、6万6,300円が納める所得税、復興特別所得税額です(100円未満の端数を切り捨て)。
この計算例では、源泉徴収されている40万円から6万6,365円を差し引いた、33万3,635円が還付される金額です。還付金の計算上、100円未満の端数は切り捨てとなりません。
報酬を受け取る場合の注意点
一部例外があるとはいえ、原則、報酬を受取るときには法令で決まっているとおりに源泉徴収されます。そのため「源泉徴収をしないでほしい」などの要望を伝えることはできませんし、支払う側にも「今回は源泉徴収しなかった」などの選択肢は存在しません。
もしかしたら、取引先の会社から「源泉徴収をしていないため、確定申告で精算するように」と伝えられることがあるかもしれません。しかし、報酬を支払う側は原則、源泉徴収をし、源泉徴収した所得税と復興特別所得税を翌月10日までに納める義務があります。義務があるにも関わらず源泉徴収や納税をしていなかった場合、報酬を支払う側に「不納付加算税」「延滞税」などが追徴課税されます
そのため、「源泉徴収をしていない」と言われたら、受け取った報酬のみを確定申告時の収入金額として計算します。ただし、これはあくまでも例外的な方法です。
支払調書は必ず発行されるものではない?
報酬を受け取った個人事業主には、取引先から源泉徴収された支払調書が送られてくることがあります。支払調書を受け取ったら、そこに記載されている「支払金額(受け取った報酬額)」を収入として、「源泉徴収税額」はそのまま源泉徴収税額として確定申告時に利用できます。
注意したいのは、支払調書は必ずもらえる書類ではないということ。取引先をはじめとする報酬の支払者は、一定の条件のもと、支払調書を税務署に提出する法律上の義務があります。しかし、報酬の支払先である個人事業主への配付は義務付けられておらず、慣例で対応しているに過ぎません。実は、個人事業主が確定申告をする場合は報酬に関する収入金額と源泉徴収額を正確に記入するだけでよく、税務署への支払調書提出は不要です。
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支払調書があれば収入金額や源泉徴収額を確認する手間が楽になりますが、最近の傾向では送られないことが一般的。支払調書がない場合を見越して、報酬を受け取る際に自分自身で「収入金額」「源泉徴収税額」を計算して帳簿に記録すると、確定申告時に困ることがありません。
例)イラスト制作で源泉徴収された5万円の報酬を受け取った場合
収入金額……5万円
源泉徴収税額……5,105円(5万円 × 10.21%)
※源泉徴収税額は、国税庁ウェブサイト:令和2年版 源泉徴収のあらまし 第5報酬・料金等の源泉徴収事務 を参照
還付される税金の受け取り方法は?
還付金は、対象年の翌年の1月1日から5年の間に還付申告をすれば、受け取ることができます。
(1)受取方法
確定申告書に受け取りを希望する金融機関口座を記入します。一般的な金融機関であれば、振り込み先として指定することができます。当然ですが、金融機関口座の記入間違いなどがあった場合は、受け取るまでに時間がかかってしまいます。同じように、下記口座にも注意しましょう。
- 対応していないインターネット専用銀行の口座
- 配偶者や親族など、本人名義ではない口座
- 旧姓名義の口座
- 本人加え、名義に屋号が入っている口座
指定できるのは原則、確定申告する本人名義の口座のみです。インターネット専用銀行を指定する場合は、あらかじめ金融機関に確認しましょう。
また、振り込みではなく、ゆうちょ銀行(郵便局)の窓口で受け取ることも可能です。その場合は受け取りを希望する郵便局名を確定申告書の「郵便局名等」の部分に記入します。受け取りの際は下記を指定の郵便局窓口まで持参のうえ、受け取ります。
- 確定申告後に届く税務署からのお知らせのはがき
- 身分証明書
- 印章(ハンコ)
(2)受取時期
確定申告書を提出すると、税務署で申告内容や添付書類の確認を行います。この確認作業が終わったタイミングで還付金を受け取ることができます。おおむね、確定申告をしてから還付金を受け取れるまでの期間は下記です。
- 書面で確定申告書を提出した場合……1~1カ月半ほど
- e-Tax(電子申告)で確定申告書を送信した場合……2~3週間ほど
税金の還付は、あらかじめ「源泉徴収」や「予定納税」という手段で支払った所得税、復興特別所得税が正しい金額に精算されるだけの手続きであり、経済的には得することも、損をすることもありません。確定申告をした翌年には、所得に応じて住民税などの支払いも待ち受けています。還付金の使いみちも計画的に考えたいですね。