個人事業主がおさえるべき社会保険の基礎~加入条件や保険料について~

個人事業主になると、会社員とは違って自分で社会保険に加入する必要があります。さらに、会社員であれば、社会保険料は会社が手続きを行い給与から天引きされますが、個人事業主は自分で計算して納めなければなりません。そのため、その仕組みや計算方法についての理解が求められます。そこで、個人事業主にとって必要な社会保険の基礎知識について解説します。

そもそも、社会保険って何?

社会保険とは、病気や災害、事故、リストラなど、最低限の生活を送ることが困難になってしまう場合のリスクに備え、国で強制的に加入する保障制度です。保険の加入者(被保険者)が少しずつお金を出し合い、そのお金を運営している保険者が困っている人に必要なお金を支払って支え合う仕組みです。社会保険には次の種類があります。

(1)公的医療保険

病気やケガの治療にかかった医療費の一部を負担してくれる保険です。医療費の自己負担の割合は年齢や所得に応じて異なりますが、70歳未満は3割(義務教育就学以降)です。加入する医療保険は3種類に分かれています。

 

国民健康保険

個人事業者とその扶養者、無職の人が加入する。

 

健康保険

会社員や公務員、それらの扶養者が加入する。健康保険の運営元は3つあります。中小企業の会社員が加入する「協会けんぽ(全国健康保険協会管掌健康保険)」、大企業の会社員などが加入する「健康保険組合(組合管掌健康保険)」、公務員が加入する「共済組合」です。

 

後期高齢者医療制度

75歳(寝たきりなどの場合は65歳)以上の人が加入する。対象となる高齢者は個人単位で保険料を負担する。

(2)公的年金

高齢になったときに老齢年金がもらえる保険です。加入する年金は2種類あります。

 

国民年金

全国民が加入する。年金の基礎部分とも呼ばれています。老齢障害や死亡に対し、年金や一時金として給付されます。

 

厚生年金保険

会社員や公務員が加入する。年金の2階建て部分とも呼ばれ、国民年金と合わせて加入します。

(3)介護保険

介護が必要になった際に、在宅や施設などでの介護サービスの提供を受けられる保険です。介護保険料は40歳から徴収されます。

(4)雇用保険

会社員が失業した際、生活の安定と再就職の促進を目的として必要な給付を行う保険です。

(5)労災保険(労働者災害補償保険)

仕事によるケガや病気、また通勤途中にケガをした場合に会社員本人や遺族に必要な給付を行う保険です。

 

これら5つが、広い意味での社会保険です。ただし、一般的には「公的医療保険」「公的年金」「介護保険」の3つを狭義の意味での社会保険と呼ぶことがあります(以下に記載の社会保険は、狭義の意味での社会保険として扱います)。また、雇用保険と労災保険をまとめて「労働保険」と呼ぶこともあります。

 

個人事業主の場合は、国民健康保険と国民年金に加入します。従業員が5名以上になると、健康保険と厚生年金保険に加入する義務が発生します。ただし、加入するのは従業員のみで、個人事業主本人は加入できません。たとえ100人の従業員がいても、法人にしていなければ健康保険と厚生年金保険には加入できないのです。

 

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個人事業主が負担する社会保険料は?

個人事業主が加入する社会保険は、「国民健康保険」「国民年金」「介護保険」です。保険料は全額が本人負担です。

(1)国民健康保険

国民健康保険は市区町村が運営しています。そのため、保険料は所得や市区町村によって変わります。具体的には、「所得割」「資産割」「均等割」「平等割」の4つの項目で保険料が決まります。

 

所得割

加入者の所得に比例して負担割合が決まります。収入が多い人ほど多く、少ない人は少なくなります。国民健康保険料のもっとも大きな部分を占めています。前年の総所得額をもとに計算される場合がほとんどで、その場合は、計算式は以下の通りです。

 

(前年の総所得金額-基礎控除33万円)×各市区町村の保険料率

 

資産割

世帯の被保険者が持つ資産に応じて算定します。国民健康保険では、一人ひとりが被保険者になりますが、保険の構成単位は住民票上の世帯を基準にするので、保険料は世帯ごとに計算します。そのため、資産割はその世帯の被保険者の分をまとめた資産の合計に応じて決まります。算出の基準となるのは、当年度の固定資産税額。次の計算式で求めますが、その市区町村にある固定資産だけが含まれます。

 

当年度の被保険者全員の固定資産税額×各市区町村の保険料率

 

均等割

世帯の被保険者の人数に応じ、加入者一人当たりの保険料を算出します。計算式は以下の通りです。

 

被保険者数×各市区町村の均等割額

 

平等割

一世帯につき平等に同じ額が課せられます。その額は、各市区町村定額です。

保険料は、上記の4つのいずれかの項目で徴収します。4つすべてを使って計算した保険料で徴収するのを「4方式」、3つ使うのであれば「3方式」、2つ使うのであれば「2方式」といます。どの方式を使うかは各市区町村によって異なります。

(2)国民年金

国民年金は、政府(厚生労働省)が運営しています。保険料は全国一律の16,410円(令和元年度)です。

 

国民年金の保険料は一定ですが、国民健康保険料は所得に応じて保険料が大きく変わります。そのため、高所得者の場合は保険料の負担が大きくなります。ちなみに、法人化した一人会社では、自分に支払う報酬や賞与を自分で決めることができます。どんなに会社が儲かっていても、自分は高い保険料にならないように調整できます。

 

会社員の社会保険料はどう決まる?

会社勤めの方が加入する社会保険は、「健康保険」「厚生年金」「介護保険」です。これらの保険料は、受け取った給与や賞与の金額で決まります。毎年4・5・6月の給与などの平均額(新入社員は初任給)を「健康保険・厚生年金保険の保険料額表」にあてはめて決定します。

 

出典:全国健康保険協会

 

毎月の給与の社会保険料は、「標準報酬月額×保険料率」で算出します。標準報酬月額は、対象者の「報酬月額」の左欄を確認しましょう。保険料率は健康保険組合によって異なり、協会けんぽでは、都道府県によって保険料率が変わります。

 

賞与の社会保険料は、支給された賞与の額から1,000円未満を切り捨てた額を「標準賞与額」として計算します。標準報酬月額による計算とは異なり、標準賞与額に直接「健康保険料率」「厚生年金保険料率」「介護保険料率」を掛けたものが、賞与にかかる社会保険料です。

 

なお、健康保険、厚生年金、介護保険の保険料は、従業員と事業主が原則として半額ずつ負担します。その折半額は保険料額表を確認しましょう。

社会保険の加入ルールと手続き

社会保険は原則として、本社・支店・工場などの事業所単位で加入します。加入形態には「強制適用事業所」と「任意適用事業所」があります。

強制適用事業所

必ず社会保険に加入しなければいけない事業所で、すべての法人が当てはまります。また、常時5名以上の従業員を使用する適用事業(※)を営む個人の事業所も当てはまります。

(※)製造業、土木建築業、鉱業、電気ガス業、運送業、貨物積卸業、清掃業、物品販売業、金融保険業、保管賃貸業、媒介斡旋業、集金案内広告業、教育研修調査業、医療保険業、通信報道業、社会福祉事業

任意適用事業所

該当するのは2つ。一つは強制適用事業所とならない個人の事業所。もう一つは、常時5人未満の従業員を雇用する個人の事業所で、日本年金機構(年金事務所)の認可を受け健康保険、厚生年金保険の適用となった事業所です。後者は事業所で働く半数以上の人が適用事業所となることに同意し、事業主が申請して日本年金機構(年金事務所)の認可を受けると、適用事業所になることができます。従業員は全員加入することになります。 適用事業所になると、保険給付や保険料などは、強制適用事業所と同じ扱いになります。

 

社会保険に新規で加入する場合は、加入する義務の事実発生から5日以内に事業所の所在地を管轄する年金事務所に加入書類を提出します。窓口に行かなくても郵送での提出も可能です。また、社会保険の給付にも申請が必要です。自動的に支給されることがないので、必ず窓口に申請に行きます。

個人事業主が社会保険料を抑える4つのポイント

個人事業主が加入する国民年金は全国一律で決まっています。そのため、保険料を抑えるためには国民健康保険料を抑える必要があります。裏ワザはありませんが、工夫次第では安くすることができます。以下にいくつかご紹介いたします。

(1)前納割引を利用する

保険料を納付する際に1年分を一括で前納すると保険料が割引されます。市区町村によって割引額は異なります。保険証と認印を持って市区町村の役場に行けば、手続きが可能です。

(2)保険料の安い市区町村へ引越しをする

簡単にできるものではありませんが、年間で数十万円もの節約が可能になることも。全国で一番高い自治体と低い自治体では2倍以上の差が出るケースもあります。保険料のために引越すのは現実的ではありませんが、どちらの地域にするか迷った際は引越し先の保険料を確認するのも一つの手です。

(3)世帯を一つにまとめる

平等割額が保険料に加算される市区町村の場合、別世帯として国民健康保険に加入すると平等割額がかかります。同一住居で生活しているなら、世帯を一つにまとめましょう。

(4)法人化する

会社として社会保険制度に加入すると、保険料を大幅に削減できる可能性があります。前述した通り、法人であれば会社が儲かっていても自身の報酬を自分で決めることができます。報酬を調整して、保険料を抑えることができます。

マイナンバー(個人番号)制度との関わりは?

マイナンバー制度とは、日本に住民票をもつすべての人に12桁の番号(個人番号)を付けて行政機関の手続きに活用する制度です。2016年1月から運用が始まり、「行政の効率化」「国民の利便性向上」「公平公正な社会の実現」の3つを目的としています。今のところ、「社会保障」「税」「災害対策」にのみ活用されます。

 

社会保障・税関連について行政機関に手続きをする場合には、マイナンバー(個人番号)が必要です。記載が必要となる時期は、下記になります。

2016年1月から

雇用保険、労災保険、国民健康保険、介護保険、企業年金

2017年1月から

健康保険、厚生年金保険

 

マイナンバー(個人番号)を扱うことができるのは、手続きを行う行政機関など「個人番号利用者事務実施者」、および勤務先など「個人番号関係事務実施者」に限定されています。そのため、従業員のマイナンバーを扱う際には注意が必要です。

 

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社会保険と一言で言っても、その中身は多岐に渡ります。正しい知識を身に付け、社会保険の加入と支払いを行いましょう。

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