「個人事業主は確定申告が義務」とよく聞きますが、必ずしもそうではないことをご存じですか? 個人事業主に確定申告の義務が生じる基準、また確定申告のもととなる帳簿付けが義務化する基準について解説します。
個人事業主に確定申告の義務が生じる基準は?
確定申告の義務が生じるかどうかは、「基準所得税額」で決まります。この額が0円でなければ、原則として確定申告が必要です。実務上は100円未満の端数を切り捨てるため、「基準所得税額」が100円以上の場合となります。
基準所得税額の算出式
(事業収入-必要経費-所得控除)×所得税の税率-配当控除
課税される所得金額
- 事業収入……消費税込みの売上金額
- 必要経費……仕事のために支出した経費の金額
- 所得控除……個人的事情を所得税額の計算に反映する制度。基礎控除、社会保険料控除、医療費控除など14種類
- 所得税の税率……課税される所得金額によって決定。5%~45%まで7段階の税率と、それぞれに対応した控除額が設定されている
※計算方法は、「課税される所得金額」に下記表で該当する税率を掛け合わせた後、控除額を引く。 - 配当控除……上場株式等の配当がある場合、確定申告時に受けられる一定額の控除
基準所得税額の計算例
例) 事業収入=500万円、必要経費=200万円、所得控除=50万円、税額控除=0円の場合
まずは、課税される所得金額を求めます。
500万円(事業収入)-200万円(必要経費)-50万円(所得控除)=250万円(課税される所得金額)
次に、所得税の税率を掛け合わせます。所得税表によれば、課税される所得金額が250万円の場合、所得税率は10%、控除額は9万7,500円ですから、下記のように計算します。
250万円(課税される所得金額)×10%(所得税率)-9万7,500円(控除額)=15万2,500円
配当控除は0円のため、「基準所得税額」は15万2,500円となります。
15万2,500円―0円(配当控除)=15万2,500円(基準所得税額)
なお、「基準所得税額」が0円であっても、ほかに所得がある場合、各種特例の適用を受ける場合などは確定申告が必要になる場合があります。
確定申告の義務がなくても、帳簿の作成は必要
確定申告が必要かどうかは、「基準所得税額」で判断されます。しかし、確定申告の義務の有無と、「帳簿作成」の義務の有無は基準が違います。
帳簿作成の義務が生じる基準
- 事業所得、不動産所得、山林所得のいずれかの所得が発生する仕事をしている
- 白色申告をしている
この場合、もれなく全員が「帳簿の作成と保存」をする必要があります。また、青色申告をしている個人事業主には、もともと帳簿を作成する義務があります。要するに、個人事業主として仕事をしている限り、全員に「帳簿の作成と保存義務」が発生するということなのです。
以前までは、「前々年分または前年分の事業所等の金額が300万円を超えた白色申告者」という基準があり、すべての個人事業主に帳簿の作成と保存が義務づけられてはいませんでした。しかし税制改正により、2014年1月からその義務の課される範囲が広がりました。
「帳簿の作成と保存」とは具体的にどういうこと?
個人事業主は、確定申告に必要な帳簿を作成し、所定の期間保存する必要があります。
(1)記帳(帳簿の作成
収入金額、必要経費に関する取引について、帳簿を作成する必要があります。
帳簿に記帳する内容
・収入、必要経費に関する取引の年月日
・収入、必要経費に関する取引先の名前
・収入、必要経費の金額
・収入、あるいは経費が生じた理由
・日々の売上 ・仕入の合計額など
※なお、白色申告と青色申告特別控除(10万円)の帳簿作成は、取引一つひとつではなく日々の合計額をまとめるなどの“簡易な方法”で行ってもよいことになっています。
例)
・飲食店などの現金売上は1日分を一括で記帳
・収入や支出の事実が発生した時点ではなく、現金の収入や支出があった日付を基準とした記帳
(2)保存(帳簿、書類の保存)
(1)で作成した帳簿のほか、取引に関連する書類を保存する必要があります。
帳簿の種類と保存期間
- 法定帳簿=収入や必要経費の金額などを記録した帳簿……7年間
- 任意帳簿=売掛帳や買掛帳、固定資産台帳など、上記以外で、業務上作成した帳簿……5年間の保存
書類の種類と保存期間
- 決算のために作成した棚卸表など……5年間
- 業務上作成、受領した領収書、請求書、納品書、送り状など……5年間
税務調査などでは、税務署から帳簿を見せるように必ず要求されます。すべての個人事業主に帳簿の作成、保存が義務付けられている以上、「帳簿をつけていない」「紛失した」などの理由は一切通用しません。いつ、どのようなことがあっても対応できるよう、日々、しっかりと帳簿付けに取り組んでおきましょう。