新卒フリーランスだった3人に20年後の今を聞いてみた!

ワーキングスタイルが多様化しつつある昨今、大卒から就職せずフリーランスになる、いわゆる「新卒フリーランス」が何かと注目を集めています。

 

何の縛りもなく、自分らしく自由に働ける夢と、生活を自分自身で保障しなければならないシビアな現実。光と影を併せ持つフリーランスを社会人の第一歩から選択して、本当に稼げるのか。いや、何より稼ぎ続けていけるのか。

 

今回は新卒フリーランスとして社会に出た御三方にお集まりいただき、これまでの奮闘を振り返り、自由にお話しいただきました。新卒フリーランス20年生、果たして幸せになれたのでしょうか――?

 

  • Aさん:ライター/プランナー。大学を卒業後、2000年よりフリーランス。占い師としての顔も持ち、鑑定からコラム執筆、書籍まで占い関連のコンテンツも手がける。マーケティングリサーチ、プランニングの現場でも経験を積んでおり、幅広いジャンルで執筆を続けている。

 

  • Kさん :デジタル&家電ライター。大学在学時からライター活動をスタートし、フリーランスに。PC、AV機器、白物家電などをカバーしてWeb媒体、雑誌で幅広く執筆してきた。現在は『日経トレンディ』や『東洋経済オンライン』にて連載を執筆。All Aboutパソコンガイドも務める。

 

  • Mさん :編集プロダクション代表。大学在学時から雑誌編集に携わり、25歳で編集者・ライターとして独立。そこからさらにフリーランスとして5年半の活動を経て、会社を設立した。

新卒フリーランスという生き方を選んだワケ

――まずは、自己紹介を兼ねて、「新卒フリーランス」になった経緯をお聞かせください。

Kさん :デジタル&家電ライターです。大学在学中にライター養成学校に通っていたら、ツテでファッション誌の『Boon』で原稿を書くことになりまして、それがライターのスタートですね。普通に就活しようかと思っていたのですが、知人の会社が長野オリンピック関連でサイト構築の大型案件を受注し、コーディングを手伝ったら大学4年生の前半を幽閉されて過ごすことに(笑)。就職活動ができなかったので、それならフリーでいくか、と、まあ軽い気持ちでライター業に専念していくことになったんですね。

 

Aさん :私の場合、大学を卒業したのが2000年。ちょうど就職氷河期と騒がれた頃ですね。自分が就職できる気がまったくしなかったので、就活は最初から放棄。とあるマーケティングリサーチの会社が運営しているサイトに書き込みをしていたら「君、文章が面白いね」と言われて、文章を書く仕事をするようになりました。途中、制作会社に籍を置いたこともありますが、文筆業は自由にさせてもらうのを条件にしていました。そうして、占いを専門分野にするようになったり、書籍を書いたり、いろいろ仕事の幅を広げて今に至ります。


Mさん :大学生の時に愛読書だった雑誌でバイト募集を見かけ、応募して採用されたのがきっかけです。実は就職活動はちゃんとして某メーカーに就職が決まっていたのですが、編集長に報告したら「何やってんだよ、うちに残ればいいじゃん」と言われて、そのまま業務委託で編集部に残ることにしました。所属型のフリーランスですね。ただ、その契約を結んだ後、たった半年で雑誌がなくなり、会社も解散してしまったんですよ。こりゃしょうがないなと思って自分の名刺を作り、流されるままいつの間にかフリーランスになってしまいました。フリーは実質的には5年半ぐらいで、31歳で会社を興して、現在に至ります。

「フリーランス」のスタイルがフィーチャーされた最初の時代

――お話を聞いていると、自ら望んで選び取ったというよりは、流れに任せて自然にフリーランスになったような印象がありますが。

Aさん:Kさん、Mさんが大学を卒業する90年代後半は「就職氷河期」の始まりで、まだそんなに状況は悪化していなかったんですよね。だけど、その後の私の時は本当に厳しくて、就職に成功するというイメージはまったく持てませんでしたから。


Kさん :時代の空気というのもありますね。その頃、フリーライターという働き方を喧伝する大人がたくさんいたんですよ。「フリーライターになるには」といった養成本も山のように出ていたし。


Aさん:ああ、持ってました!フリーとしての営業の仕方とか、いろいろ書いているんですよね。「持ち込みすべし」なんて書いてあったけど、私は1回もしたことがありません。だって、怖いじゃないですか……。

 

Mさん:営業は私もやったことはないですね。雑誌の編集スタッフからフリーになる時に、挨拶のはがきを400枚ぐらい刷って、今までお世話になった人に送ったんですよ。そこで4、5件ぐらい仕事のオファーが来て、その時のつながりや縁から広がって、ありがたいことに今まで仕事が途切れたことがありません。


Kさん:持ち込み、営業もキャリアによりますよね。これはライターに限ったことではないと思うんですが、フリーランスの初期というのは営業先に見せる材料がないんですよ。実績を積んでいないから。だけど、30代の10年選手になると、成果はそこそこあるし、業界内にもある程度名前が知られるようになる。そこまでいけば、営業をする必要もなくなりますからね。

持ち込み営業、そしてつながりをたどってのサバイバル

――自分を売り込んだり、つながりでオファーをもらったり、実績が名刺になったり。仕事をつかむ手段はさまざまあるということですね。だけど皆さん、これまで順風満帆というわけでは……

Kさん:ありませんよ、もちろん(笑)。僕は特に浮き沈みが激しい方じゃないでしょうか。デジタルライターですから、山のように出ていたパソコン雑誌、ムックの恩恵に預かったこともあれば、その後の休刊ラッシュも経験しています。年収が前年比で5倍になったこともあれば、貯金を食いつぶす無為の生活を3年ぐらい続けたことも(笑)。100グラム39円の鶏胸肉を買って、かみさんとしのいだ「地獄の胸肉時代」があったなぁ……。

 

Aさん:分かります! 私も「お肉を食べる日は月に1回」と決めていた時代がありましたから。春になると、野草を摘んで食べたこともありましたよ。当時は冷蔵庫も、お布団もなかった。新聞紙をかぶって寝てました。お布団がないと、人間ってなかなか落ち着いて眠れない、ということを学びましたね(笑)。ただ、家電や寝具がなくても、パソコンとネット環境、机はしっかり整えていました。ライターとしてそこだけは守ろう、と。

 

Mさん:私の場合、困窮とまではいかないんですけど、明日なきフリーランスの身であっても、誘われた飲み会には絶対に顔を出そうと決めていたんですよ。その飲み代をプールするために年がら年中、真夏でも自炊で鍋料理をしていましたね。Kさんの地獄の胸肉、Aさんの野草にはかないませんが……(笑)。


Kさん:Aさんはパソコンとネット、Mさんは飲み会。お金に余裕がなくても、フリーランスとして譲れない一線は明確にあったということですよね。僕はパソコンやデジタル機器かな。デスクトップとノートPCを1年おきに最新モデルに買い替えて、カメラやデジタル機器は年に4、5台購入する。デモ機をちょっと借りての試用ではなく、ある程度身銭を切って使い込まなきゃ分からないこともあるんですよ。

――同じフリーランスといえども、固定費や経費は業種によってさまざまだと思います。だけど、確定申告も自分で行う必要がありますよね。そのご苦労は?

Mさん:初めて確定申告をした時は何が何だか分からないまま終わりました。説明会に足を運んだら、そこにいた税理士さんに「領収書とか全然取ってないんですか?」と呆れ顔で言われてしまい、うなずいたら経費をざっくり計算してくれて、源泉徴収の全額が還付されました。ほんの数万円でしたが、うれしかったです。


Kさん:ライターの経費が売り上げの3~4割まで”みなし”で認められて、白色申告でも十分にメリットがある時代が確かにありましたね。僕は青色申告にして自分で処理しているから、繁忙期の3月に毎年大変なことになっています(笑)。「還付金はフリーランスにとってのボーナス」という人もいるけど、冗談じゃない。還付金が振り込まれると、その後に住民税、健康保険料がガッツリかかってきます。言うほどのおいしさはないですよ。

 

Aさん:私は牧歌的なままやってきて、つい最近になって法人化しました。エキスパートにお任せしていて、あまり確定申告で苦労はしていないですね。

フリーランスすごろく、そのあがりはいかに?

――皆さんの中ではAさんとMさんは法人を立ち上げ、フリーランスから経営者になっていますね。ここからは、新卒フリーランスの行く末、「ゴール」について語っていただきましょう。

Mさん:会社を作ったのは、性分というかスタイルですね。個人で生きていく、一人で仕事をしていくスタイルは、私はあまり得意ではないんです。だったら、会社を作って業界内で存在感を高めていければという思いで起業しました。


Kさん:得意・不得意はありますね。僕の場合、いろいろ仕事をこなすなかで、「どうやら、自分は若い子にものを教えたり面倒を見たりするのは、得意ではないな」と気づいたんですよ。人を雇うことなく会社を起こすメリットはありません。そう考えて、今なおフリーランス。ただ、ライターだけではなくコンサルタント業も始めているので、そっちでの起業は視野に入っています。

 

Aさん:「ライター業だけ」の限界を感じたのは私も同じですね。私は書くことが何よりも好きです。だからこそ、自分一人で続けていく上での限界も分かるんです。そこで、原稿料収入だけではなく、占いコンテンツも柱にしています。印税やアプリからの収入を見越し、結果として法人化することになりました。


Kさん:Aさんがおっしゃるように、時間が有限である以上、フリーランス個人の労働量には限界がある。つまり、収入にも天井がある。解決策は単価を上げるしかないけど、ライターに限らず単価は下落の一方ですよね。

――新卒フリーランス20年選手の皆さんは、複数のキャッシュポイントを持つ方向に向かっている、ということですね。では最後に、これまでを振り返って「新卒フリーランスは是か非か」を総括していただきましょう。

Kさん:20代のころはフリーランスの方が稼げるんですよ。前述のとおり、20代後半で年商1,500万円を超えたこともあります。ただ、30代も中盤を過ぎると、周囲のサラリーマンの安定ぶりが非常にうらやましい(笑)。「何、そのボーナス!?」「何、その福利厚生!?」「何、その社保負担……」。まあ、だけど、自分の人生はフリーランスだったかなとも思いますし。新卒で企業に入るにしろ、フリーランスになるにしろ、要は納得して進めたかどうかじゃないでしょうか。


Mさん:同感ですね。どの道を進むにしろ、意識的であれば学びがあり、経験になります。ただ、新卒カードは切り札ですからね。年を取ってから使えるカードじゃない。新卒のときに切れるなら、切っておいた方がいいんじゃないでしょうか。

 

Aさん:そうですね、私も一度は会社に入っておいて損はないと思います。ほら、新卒でフリーランスになると、社会人としての戦い方を知らないでしょう?

 

たとえば、クライアントとのやりとりです。言われるがままにギャラを設定されないよう、あの手この手で交渉していく心理戦の側面もあります。そんな丁々発止の技を自分で構築していくのは結構しんどいですよ。いずれフリーランスを目指すとしても、特権である新卒カードを切って、お金をもらいながら学ぶ期間があってもいいと思います。

 

――自由なワークスタイルもいいけどちょっと待て! 新卒カードの特権を忘れてない?ということですね。新卒フリーランス20年生のみなさんの貴重なお言葉をいただきました。本日はありがとうございました!

Writer Profile
佐々木正孝
佐々木正孝

ライター/編集者。有限会社キッズファクトリー代表。情報誌、ムック、Webを中心として、フード、トレンド、IT、ガジェットに関する記事を執筆している。

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