
さまざまな洋服のなかから、着る人の魅力を引き出すコーディネートを考える「スタイリスト」。雑誌やファッションショー、個人のパーソナルスタイリングと、活躍の場は幅広くあります。
一般的にスタイリストを志す人は、ファッション関係の専門学校を卒業後、まずは事務所に所属したり先輩のアシスタントについたりして、徐々に独立していくとされています。ところが、現在フリーランスのスタイリストとして活躍する諸岡史織さんは、大卒で元事務職の経験も持つ異色の経歴の持ち主。一体、どのような経緯でスタイリストとして独立に至ったのか、聞きました。
スタイリストはセンスが良いだけではダメ、体力勝負!
――最初に、スタイリストの仕事内容について教えてください。
スタイリストの仕事はファッション雑誌や広告代理店などから、「こんな衣装を集めてスタイリングしてほしい」という依頼が来るところからはじまります。クライアントからは、モデルさんのサイズ表や、衣装の絵コンテなど、どんなイメージで撮影したいか、ざっくりとしたオーダーが届きます。それを見てから、スタイリストがどんなスタイリングにするかをます。
それから、企画と予算にあった洋服や小物を探しに行き、買ったりリースしてもらったり、場合によってメーカーさんに貸し出してもらったりします。
――スタイリングはどのように決めるのでしょうか?
基本的には、モデルさんの顔やスタイルを見て、その人に似合う洋服のメインカラーと形を決めていきます。コーディネートはスタイリストのセンスに委ねられますが、着る人の好みを聞いて決めることもあります。
無給が当たり前のアシスタント時代
――諸岡さんはファッション関係の専門学校ではなく、四年制大学を卒業されていますよね。
そうなんです。大学を卒業してからすぐ、自分で従事したいスタイリストさんと偶然知り合うチャンスがあり、アシスタントとして採用してもらいました。普通はスタイリスト事務所に入るか、雑誌などに出ているアシスタントに応募することがほとんどなのですが、私は専門学校を出ていなかったので、イチから勉強するつもりで個人のスタイリストの元で働くことにしました。ただ、働くといっても個人スタイリストのアシスタントは“お手伝い”の扱いになり、無給でした。私は実家が東京なので、とりあえず住むところはあったので何とか生活できました。
――アシスタントは何年ほど?
私は2年ほどアシスタントを続けて、もう少し続けるつもりでいたのですが、腰を悪くしてしまったんです。スタイリストは重い荷物を持って移動するのも仕事のうちなので、本当に体力勝負。なので、身体を壊してしまうと働きづらくなってしまうんです。そのうち精神的にも参ってしまい、ほかの仕事に就くことを考えました。
――何のお仕事に就かれたのでしょうか?
アパレル販売員をしたのち、正社員で事務職に就きました。ただ、アシスタントを辞めてからすぐに働きたいと思ったのですが、転職活動が結構大変で……。というのも、2年間のアシスタント経験は無給だったことで仕事とは見なされず、第二新卒でもなくニート扱いになってしまうんです。人材派遣の登録を断られることもあり、現実は甘くないということを思い知りましたね。
やっと就いた事務職ですが、仕事をするうちにやはり服の仕事がしたいなという気持ちが強くなりました。そのとき、スタイリスト事務所のマネージャー職の募集を見つけて、思い切って応募。採用してもらうことができ、服に遠からず近からず関わることができるようになったのが3年前です。
――スタイリストではなく、マネージャー?
はい。マネージャーは、スタイリストのマネージメントをする、“裏方の裏方”。現場に出ることはありません。事務職の経験値も役立てながら、洋服の勉強もできました。会社には6人のスタイリストが所属していましたが、それぞれのスタイリングの良し悪しを俯瞰してみることができたのは貴重でした。
上海にある日本のブランドからスタイリングの依頼がきた
――それからどのようにして、スタイリストに復帰されたのでしょうか?
知り合いを介して「上海でブランドの新作を発表する際にコーディネートを、日本人にお願いしたい」という話があり、手伝うことになりました。それからしばらくして、「表参道にファッションレンタルのお店を立ち上げるのでスタイリストとして手伝ってほしい」と声を掛けていただき、正社員として働くことに。
その頃は、平日はファッションレンタル、休日はフリーランスとしてスタイリングの撮影をする状態でした。2016年の初めに表参道のお店がクローズすることになり、それをきっかけに、フリーランスのスタイリストとして独立することにしました。
――フリーになって、収入の変化は……。
ファッションレンタルの会社で働いていたときの固定給の振り込みが8月まであったので、独立後の収入はこれから入るのですが、正直焦ってはいますね(苦笑)。スタイリストの収入はこれからもっと作っていかなければいけないのですが、キャスティング関連の会社やテレビの仕事もお付き合いが深くなり、衣装以外の現場まわりのこともお手伝いする機会にも恵まれました。
あと、幸運なことに学生時代からの友人が起業している人が多くて、飲み会で集まるときに仕事を紹介してくれることもあります。なかには、手ぶらで旅行ができるように、「ホテルに着いたらクローゼットに服が用意されている」というビジネスを企画している子もいて、その子が主催したイベントでスタイリングを担当して、ビジネスを広めるお手伝いをしました。今はがっつり稼ぐぞというより、助け合い精神で何とか頑張っていきたいと思っています。
――スタイリストとしてのギャラはどのように決まりますか?
通常はクライアントから「これくらいのギャラでスタイリングしてください」と提案され、その内容で受けるか受けないかを決めるので、基本的に交渉はしません。
ただ、場合によっては交渉も必要です。たとえば、着物を1万円でスタイリングしてほしいと言われたとしても、着付けの人を呼ばなければいけないので、必要な費用を提示し「1万円ではできません」と伝えて見直していただくこともあります。
また、報酬は集めたものも違えば、多さの違いもあり、さらには媒体によっても異なり、条件はかなり多岐にわたります。ファッション雑誌だと1ページあたり数万円と聞いたことがあります。テレビ番組のタレントさんも衣装代を抜きで考えると、1ポーズつまりスタイリング1件の費用が同様の額になるようです。
グローバルに活躍できるスタイリストに
――まだフリーランスになりたてとのことですが、今後はどのような仕事を手掛けていきたいですか?
スタイリングは写真や記事などで形に残る仕事なので、着る人の魅力が引き立つ内容で仕上がっていると、喜びを感じますね。相手に喜んでもらえるのもうれしいですし。
また、最近は東京のことを紹介する中国のテレビ番組で出演者の方のスタイリングを担当したのですが、スタイリストの仕事は国境を越える仕事だということも実感しました。なので、国内にとどまらずさまざまな国の方たちと仕事をしていけたらいいなと思います。