庭師はどんな仕事をしている?夫婦で「庭匠 風玄 東京」を営む深津さん&堀内さんの働き方【前編】
2020.02.18

建物や住まいに彩りを与えてくれる庭。その庭をゼロから設計し、施工から手入れなどの管理全てを請け負う職人が「庭師」です。石や樹木を配するだけでなく、繊細なはさみさばきで樹木を整える庭師ですが、そのお仕事内容やマネー事情についてはあまり知られていません。

 

そこで、夫婦で「庭匠 風玄(ふうげん) 東京」を営んでいる、庭師の深津晋太郎さんと堀内千恵さんを直撃。個人宅から社寺、店舗に至るまで幅広く庭を手掛けるお二人ですが、庭師はどんなことをしているのか、また気になるお金のコトについて聞きました。

庭を提案する前には夫婦でしっかり打ち合わせ

――最初に、庭師の仕事内容について教えてください。

深津さん:「庭を造ること」が前提の仕事です。石を組んだり樹木の特性を考えて木を植えたり、池を造ったりと、景観を造り上げていきます。それに加えて、庭を造り終えてからも継続して管理をすることも大切な仕事。

 

植物を扱っているので、1年から3年そして10年、またそれ以上と長期にわたって、成長や状態を見ていくのが庭師の役割です。仕事の進め方としては、まずお客さまの希望を伺います。それをもとに庭全体のイメージやコンセプトを決めて設計をして、お客さまにプレゼン。そのときに、石組みの意味やシンボルツリーに込めた想いなどお話しさせて頂きます。具体的な提案をして、気に入っていただけたら契約を結びます。


堀内さん:提案には図面を使用するのですが、図面に落とし込む前に何度も夫婦で話し合います。「あそこの庭はどうしようか」と話し、お互いのイメージを噛み砕きながら練っていきます。そのイメージをもとに私が手描きで作成しています。

 

図面には「ここにこういう木を植えます」といった詳細も描くのですが、どうしても平面図だと、イメージがわかないとおっしゃる方もいます。その場合は、私たちが持っている完成イメージをお客さまに理解していただくために模型を造ることもあります。

――図面が手書きというのに驚きです。

深津さん:今はほとんどパソコンで完成予想図を作っているようです。でも、私たちは石や樹木、水などの自然の恩恵で、ものづくりをしているわけですから、パースでは伝えきれない部分があります。そのため、模型に限らず図面も手書きで妻が描いています。

 

堀内さん:設計ソフトを使ったほうが早いかなと思うのですが、私自身、手描きでの図面作成が好きなんです。味があるというか、温もりがあるというか…。一つひとつ描いていくうちに、出来上がりのイメージが鮮明になります。私たちの強みは、造っていく過程にも、気持ちを込めることなんです。

――ただ、時間も手間もかなり掛かるのではないでしょうか?

深津さん:庭は決して安いものではありません。でも、そこにお金を出してくださるお客さまに対して、自分たちがどこまで気持ちのこもった庭を造れるかが、大事じゃないかなと思うんです。たとえば、「言われた通りの場所に木を植えましたよ」だけでは、プロの庭師とはいえません。プロとして、「こういうプランがあります」「ここをこうしたらもっと良くなります」ということを提案し理解してもらうには、どうしたらいいかを考え抜くことが必要なんだと思います。

 

堀内さん:図面を描いて、同時にお見積書も作成します。「このプランに対していくらです」というご提案になります。お客さまに検討していただいた結果、契約にいたらないこともあります。

庭師の仕事は「人工(にんく)」で細かく計算

――ということは、契約前に図面や模型造りをされているということですよね? 時間を掛けた提案内容が無駄になってしまうこともあるのでは?

堀内さん:はい、あります。なので、設計料をいただいた方がいいんじゃない? とおっしゃる方もいますが、図面を描くのが好きですし、楽しいからいいかって思ってしまうんですよね。一応労力を使っているという意味では悩ましいのですが、それでご納得いただけずに音沙汰がなければしょうがないかなと。

 

深津さん:庭をゼロから造る場合、施工内容によって変わってきますが、石を配置する「石組工」や樹木を植える「植栽工」などがあります。

私たち庭師は、1日の仕事を人工(にんく)で計算します。たとえば、木を植えるとして、材料となる木の値段に、その木1本を植えるために必要な人員数を人工として計算して、合計したものが費用となります。ざっくりとですが、こんな感じで見積もりを算出します。

――となると、計算が大変になりそうですね。ちなみに、植木や人工などの費用には相場があるのでしょうか?

堀内さん:相場というか、指標となる「物価本」と呼ばれるものはありますが、主に公共工事などで使われていると思います。私たちは直接、植木卸屋さんに足を運び、たとえば「このサクラがほしいです!」と決めて、見積もりしてもらいます。ちなみに、「幹の太さ」や「この木を育てるための手間賃」などで値段を決めているようです。

石も樹木も同じものはふたつとないので、信頼できる植木卸屋さんや石材屋さんを見つけることが大事だと感じています。

 

深津さん:人工や算出方法については、会社によって違うと思います。私たちは同じ師匠についていたので、師匠の算出方法を参考にしています。あとは同業者の仲間に聞いて参考にすることも。べらぼうに高すぎると現実的ではないので、見積もりは毎回悩むところですね。

依頼主に配慮した「枯れ保証」は庭師業界ならでは

――売り上げの内訳はどのようになっているのでしょうか?

深津さん:一般的に材料費3割、人件費3割、利益が3割といわれますが、なかなかそうもいきません。どんなに緻密に計算しても、外で仕事をしている以上、天候に左右されます。1日で終わる仕事が、雨が降ってしまって2日かかることもあります。また、規模が大きくなると人手を外注することもあります。思いがけないことがたくさんあるので、計算通りにいくことはなかなかありません。

――これまでお二人が担当された庭で、一番高額だった案件は?

深津さん:完成までに8カ月ほどかかりました案件で、合計で1,300万円くらいのものですね。工事は第1期から第3期と分割して行いました。もともとあった石積みを壊しながら、新たに造成して石積みをして、樹木は80本ほど植えました。

――庭を造った後に「思っていたのと違う」という話になったときに、保証制度などはあるのでしょうか?

堀内さん:「思っていたのと違う」とならないように、図面でお伝えしたり、施工中にもし変更する場合は、その都度きちんと説明したりして、ご納得いただいています。

樹木も生き物なので、施工後に枯れるかもしれないですし、虫に傷つけられダメになってしまうかもしれません。ですが、お客さまに「枯れたので植え直します。お支払いをお願いします」というお願いはしたくないので、「枯れ保証」という考え方がありまして、施工してから1年以内にもし枯れてしまったら無償で植え替えます、というお約束をしています。

 

深津さん:本当に何でも手掛けるので、石仕事をするための道具や、左官屋さんみたいな仕事もするので左官道具なども用意しています。道具代は経費として計上しています。それぞれに材料も購入しますし。あとはトラックでの移動が多いので、燃料代と旅費交通費がかなりかさみます。経費の項目としては、移動にかかるものの割合が大きいですね。

Interview
深津晋太郎さん/堀内千恵さん
深津晋太郎さん/堀内千恵さん

代表 深津晋太郎さん(右)
1981年3月生まれ 群馬県桐生市出身。18歳より北山安夫氏を師とし、12年間多くの作庭および宮内庁管轄庭園や個人邸の剪定に従事。主に京都東山 高台寺、圓徳院及び高台寺塔頭寺院、大本山 建仁寺、及び建仁寺塔頭寺院の年間管理、作庭に従事。

庭師 堀内千恵さん(左)
1983年2月生まれ 山梨県笛吹市出身。24歳より北山安夫氏を師とし、4年間多くの作庭および宮内庁管轄庭園や個人邸の剪定に従事。主に京都東山 高台寺、圓徳院及び高台寺塔頭寺院、大本山 建仁寺、及び建仁寺塔頭寺院の年間管理、作庭に従事。

▼庭匠 風玄 東京
http://www.fu-gen.jp/

Writer Profile
末吉陽子
末吉陽子

編集者・ライター。1985年、千葉県生まれ。日本大学芸術学部卒。コラムやインタビュー記事の執筆を中心に活動。ジャンルは、社会問題から恋愛、住宅からガイドブックまで多岐にわたる。
▼公式サイト
http://yokosueyoshi.jimdo.com/

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