追徴税額は200万円! 副業で所得のある会社員が恐怖した税務調査体験記

税務調査のターゲットといえば法人か個人事業主。しかし、会社員も確定申告の必要があれば調査の対象になり得る。

 

某社に勤務するPさんは、そんなレアな体験を持っている。「税務調査が終わってすぐ、○○税務署の管内から引っ越しました。そのときのトラウマかな……○○銀行にはいまだに不信感を持ってますし!」などなど、調査から数年経つ今も、生々しく当時を振り返るPさん。彼へのインタビューを通し、会社員の前に突如として現れた、税務調査という落とし穴を深掘りしていこう。

ある日、2人組の男が家にやってきた

――会社員として働く傍ら、IT関連の事業で活躍されています。税務調査経験があると聞いて、あらためてPさんの存在感に思いを馳せました。

ちょっとちょっと、あまり派手なことを言うとバレちゃうじゃないですか! 税務調査官もネットサーフィンしてるんですからね。くれぐれも特定されないようお願いしますよ。あれは、数年前の夏のことでした。2人の男が、突然自宅にやってきたんですよ。「今ちょっといいですか?」なんて言ってくるから狼狽して、「仕事に出るんだから。いいわけないでしょう!」って追い返したんですよね。

――突然の訪問ですか。怖いですね。

いや、事前に知らない番号から着信があったので、多分それが予告だったと思うんですけど。優しいキャラと怖いキャラ、もう刑事物のようにベタな組み合わせでした(笑)。訪問の後には電話でやりとしたんですが、すごく柔らかいタッチなんですよ。

「Pさんには申告外の収入がありますよね。それについて申告していただけませんか?」

といった具合で。僕ももちろん認めましたよ。「えーと、そういえば、申告すべき収入がありましたね、そういえば……」と、うっかりしてたという体で。いやいや、違いました。もちろん、本当にうっかりしていたんですけどね。

 

電話をかけてきたのは、なぜか怖いキャラの方だったんですが、口調はめちゃめちゃソフト。「ふらっと来てくださいよ。書類を作って終わりですから」なんておっしゃるわけです。

……絶対にそんなはずはないでしょ(笑)。むちゃくちゃ税金を取る気なのは間違いない。副業先に税理士を紹介してもらって、そこから税務署との本格的なやり取りを進めることになったんです。ほら、これがその時の申告書類です。

――えーと、平成●●年12月31日とあります。ファーストコンタクトがあったのが夏ですから、申告には数カ月を要したわけですね。

七並べのようにレシートを整理する

――会社員として働きつつ、そのほかに事業所得があった。確定申告をすべきだったのに、うっかり失念していたPさんは、一体何年ぐらい申告していなかったんですか。

5年ですねいつかはやらなきゃとは思っていたので、幸いにもレシートは5年分を取っておいてありました。

――めちゃめちゃ備えてるじゃないですか。レシート類がそろっていたら、申告書類の作成もスムーズにいったのでは?

そうでもないんです。ぐしゃっとしまっていたレシートを一枚一枚広げ、七並べのように整理する作業を1日5時間ほど、1週間はかかりました。うんざりすると共に「どれだけ払わなきゃいけないんだろう……」。とことん落ち込んだ時期ですね。

そうして事業所得をチェックしていくと、届いていない支払調書があることも判明するわけです。取引先の業者に「すみませんが、●●年の支払調書をもう一度発行していただけませんか」とメールを送ったりする作業もあった(※)。

 

これがまたね、担当者も超面倒くさそう。「こんなの来てっけど、どうする?」と、経理部に転送すべきメールを、なぜか僕のところに返信してきたという。何だかなぁ、ですよ(笑)。

 

※注:企業は報酬の支払先への支払調書を発行する義務はありません。

――ほかにそろえたものはありますか?

あと、5年間の収支をチェックしていく上では銀行の入出金明細も必要になります。これは税務署対策ではなく、税理士とのやり取りで必要になるんですね。

 

「この入金は何ですか? 収入ならきちんと記載しなければ」

「あー、すみません、飲み会の割り勘をなぜか振り込んできたやつがいたもので」

 

などなど、わざわざ記憶を掘り起こして説明しなきゃいけません。ここで腹立たしく感じたのが、長年メインバンクとして愛用してきた●●銀行ですよ。過去の明細を出してくれるまで1週間以上かかったのかな? 

 

だけど、僕より先に税務署には提出しているはず。これは税理士に聞いたんですが、税務調査官は銀行のお金の出入りを確認して、申告漏れを把握してから調査に入るようなんですね。僕には1週間以上もかけて出してきたのに、税務署には見せるのか……至極当然のことですが、いまだに根に持ってます(笑)。

――書類を準備してから申告に至るまで、調査官とはどのようなやり取りを……。

レシートと支払調書、銀行の明細を税理士に渡したあとは、僕はノータッチです。「税理士に頼んだ」と言ったら、税務調査官は残念そうでしたね。例によって、すごくやさしい口調で「税理士に頼まなくても大丈夫ですよ。すぐすぐ。うちに来てくれれば簡単にできますから」と言ってくれたんですが、丁重にお断りして、申告までは税理士に一任したというわけです。

臨時収入を救済する制度に救われた!

――書類を拝見しますと、この年のPさんは会社員としての給与が800万円。ネット業界での事業所得に該当する収入が500万円。確かに、ガッポリと取れそうな額面ですね。

ここで注意したいのが、給与と事業所得を合算して所得税が計算されるということ。合算した額面にかかる所得税率は33%ですから、天引きで納付済みの所得税との差額を納付しなければなりません。

 

そして、僕の場合はうっかり5年が経過していたわけですから、延滞税が加算されます。それが14.6%。金利の上限ギリギリ、何とも痺れる数字ですね。もし、僕が所得を隠したりしていたら、重加算税で40%増。さらに痺れていたのは間違いないでしょう。

――そうなると、税務調査で納めたのは……?

200万円ですね。税理士には「ストレートにいったら400万はいきますよ」と言われていたので、御の字ですけど。「ふらっと来てくださいよ」という言葉通り、税務署に足を運んでいたら、それぐらいの額面になったのかもしれません。

――税理士に依頼したおかげで半減できた、と。

それは確かでしょうね。プロのネゴシエーターぶりを発揮してくれました。僕は当然知らなかったんですが、「変動所得の平均課税制度」というものがあります。これは収入の変動が激しい職業を救済するための制度。印税などで急に収入が増えた場合の負担を減らしてくれるわけです。

 

この制度の利用については税務署と理解の相違があったのですが、税理士が過去の実績を基に交渉してくれました。これは助かりましたよ。

 

僕の業界には「税制には詳しいから、何かあったら任せてよ」という人もいますが、この手の素人に任せると必ず余計なことをして大やけどするでしょう。やはり、いざというときに頼りになるのがプロです。

会社員にも事業所得があれば、税務調査はいつかやってくる

――Pさんの税務調査は200万円の追加納税という結末を迎えました。この経験から得たものは?

僕のようにまとまった事業所得があれば、いつか税務調査は入ります。銀行の明細を先んじて入手しているような税務調査官をごまかすことはできないと心得て、マメな申告が不可欠でしょうね。

 

事業所得の方の源泉所得税で引かれているから大丈夫だろう、と思っても、給与と事業所得を合算すると、税率が格段に上がりますからね。税務調査を経験して以降、僕は確定申告を毎年税理士に依頼するようになりました。経費などをきちんと計算してくれるので、還付金が若干でもプラスにはなります。当たり前のことですが、プロに頼んで、きっちりとやってもらった方がいい。

――きちんと確定申告をするようになってお金の使い方は変わりましたか?

収支のログを残すことを意識するようになりましたね。現金主義からカード主義に。クレジットカードなら明細が残りますし、本などもできるだけアマゾンで買って履歴を残している。メインバンクも、ログがエクセルでダウンロードできるネット銀行に変えようかなと思っているほどです。

――万が一に備え、対策もするようになったのですね。

だけど、税務調査の後にすぐ引っ越しましたよ。あの税務署に申告すると「あのときの税務調査のやつだ」と思われるのがしゃくなので! 税務署って横のつながりがあまりないそうなので、今は新しい管内で真面目に申告させていただいております。

――そういえば……冒頭で「税務調査官もネットを見ている」とおっしゃっていましたが、今回のご登場は大丈夫ですか?

だから、くれぐれも身バレはしないようお願いしますって(笑)。税理士に聞いたんですが、SNSも広くチェックしているそうです。「コミケで100万円も儲かっちゃいましたぁ♪」とか、「起業1カ月で売り上げ●●●●万クリア!」なんて書いている人を見かけますが、気を付けた方がいいと僕は思いますね……。あなたのところにも、税務調査官はいつかやってきますから!

Writer Profile
佐々木正孝
佐々木正孝

ライター/編集者。有限会社キッズファクトリー代表。情報誌、ムック、Webを中心として、フード、トレンド、IT、ガジェットに関する記事を執筆している。

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