「卓上セーブポイント」で脱サラ!“ものづくり”で生活できるの?

個人が作った物をイベントやネットで売るなど、近年は制作物を世に出すハードルが下がったのではないでしょうか。中には、これらの販売をきっかけに、本格的な仕事にする人もいます。

 

「くだらないもの工房」店主の橘川匠さんが販売する「卓上セーブポイント」は、ロールプレイングゲームに出てきそうなセーブポイントをイメージしたユニークなグッズ。ゲームファンを中心に人気を誇り、即売会イベントや通販では売り切れ続出で、生産が追いついていない状態とのこと。

 

そんな橘川さんは現在、会社員を辞めて卓上セーブポイントをメインにものづくり一本で生活しています。どのように生計を立てているのか、会社員時代の収入に比べてどのくらい変わったのか、ものづくりを仕事にする人のお金事情について話を聞きました。

観客にドン引きされたことが「自分らしさ」の気づきに

――もともとは会社員とのことですが、物を作るきっかけには何があったのでしょうか?

劇団のスタッフとして小道具を作っていた経験があります。あるとき、ダルマ職人が主役の作品に使う「復讐ダルマ」を作ってほしいと依頼され、ネーミングの印象だけでイメージして制作することになりました。そこで血みどろのダルマを作ったところ、観客にドン引きされてしまいました。

 

そのリアクションを見て、単に依頼された物を作るのではなく、自分らしさを加えることに楽しさを覚えました。その後は劇中に一瞬しか登場しないパンケーキを食品サンプルレベルで作ったり、死体を模した人形を処分に困るほどのクオリティにしたりしてました(笑)。

※作家のありのままの実態をお見せするため、写真は生活感を生かしています。

即売会イベントへの参加がヒット作を生み出した

――その後、どのような経緯で現在の仕事につながっていくのでしょうか?

小道具を作っていくうちに知り合った友人に誘われて、デザフェスに行ったことがきっかけです。イベントで並べられているさまざまな作品を見て、自分も出すだけ出してみれば、いろいろな人に見てもらえるなと思い、出展を決めました。

左:復讐ダルマ、右:将棋コンバット

 

初回は以前作った復讐ダルマと、将棋のコマにヘルメットを被せ、銃を持たせた「将棋コンバット」を出品。復讐ダルマよりも将棋コンバットのほうが評判でしたね。

 

その後も半年に1回の開催に欠かさず出展し、2、3年も続けると固定客がつくようになりました。当時食いつきが良かった商品は、つまようじに死の伏線になりそうなセリフが書かれた旗をつけた「死亡フラグ」。5本セットを300円で販売したところ、1回のイベントで200袋ほど売れたので、大きく自信につながりました。

 

「他人が作らない物」「誰しもアイデアは浮かんでいても、具体的な形になっていない物」を作るのが大事だと改めて学びました。

――「卓上セーブポイント」を作るきっかけはいかがでしょうか?

即売会イベントでは、たくさんの出展者がいるので目立つことが重要なのですが、光るグッズは目に留まりやすいことに気づきました。

 

そのコンセプトからスタートして、自分が作りたい物は何かと考えた結果、できあがったのが「卓上セーブポイント」。友人向けに作っていた物を写真に撮ってTwitterにアップしたところ、思いのほか反響があったので、即売会イベントでも出すようになりました。

卓上セーブポイントの価格は「月30万円を稼ぐこと」から考えた

――気になるのは価格の付け方です。どのような観点で決めているのでしょうか?

最初は特に考えていなかったですね。当初イベントで販売していた際は、材料費と加工代で、4,000円にしました。この価格では、どれだけ売れてもあまり黒字にはなりません。それでも、通販と合わせて月5万円ほど売り上げるようになりました。

 

会社員時代はそれでも十分ですが、次第にこれだけで月30万円を稼ぐには、いくらにして何本売ればよいかを考えました。

たとえば、1本5,000円に設定して、30万円売り上げるには1カ月で60本売れる必要があります。そうなると、1日2本作る計算です。自分は1日1本ちょっとを作るのが限界で、30日間丸々働けるわけでもない……などと計算して、現在は7,000円前後で販売しています。

 

もちろん価格を上げるため、価値も高めないといけません。そのため、より質の高い材料にしたり、磨き方を変えたり、個々のデザインにバリエーションをつけたりと、クオリティもアップさせています。価格を上げた後も購入してもらえているので、適正価格にできていると思います。

――卓上セーブポイントが順調に売れていることで、独立を考えるようになったのでしょうか?

順番としては、会社員生活が肌に合わず体を壊してしまったことが先です。会社を辞めるにあたって、次の職場が決まっているわけでも、貯金が多くあるわけでもありませんでした。自分の力で収入を生み出せるのは、卓上セーブポイントの制作・販売だったので、これを機に本腰を入れようと考えました。そこで先ほどの価格設定が生きるわけです。

――脱サラした現在、どのような収入源があるのでしょうか?

収入はまず、通販が8割。2週間に1回、商品を補充しています。個人のサイトとは別に、ヴィレッジヴァンガードの公式通販サイトや、ドワンゴジェイピーストアでも販売しています。

 

そのほか、デザフェスなどの即売会イベントに出展したり、卓上セーブポイントを参加者に作ってもらうワークショップを開催したりすることで臨時収入を得ています。ワークショップは8,000円~1万円の参加費のうち、材料費と会場代で半分ほどかかります。しかしながら、自分の手を動かさなくてもよく、加工代がかからないので、1日拘束されても問題ないですね。

――会社員時代と比べて、収入はどのくらい変化しましたか?

会社員時代は派遣社員でしたが、月収は現在と同じくらいです。ただし、この仕事は売れるときと売れないときで波がありますし、自分が体調を崩して制作できないと収入が下がるリスクはあります。一方、イベントやワークショップによる臨時収入が定期的に入るので、総合的に見ると、現在のほうが貯金できていると思います。

 

また時給ベースで考えると、会社員時代は1,800円でした。それを超える時給で働くことを考えていることもあり、現在は2,000円くらいにはなっていると思います。

成功のポイントは同世代の共感

――「卓上セーブポイント」はどうして成功したのか、ご自身ではどのように分析していますか?

同世代が商品名を聞いて、どんな物なのかすぐわかるものだったことがポイントでしょう。国産ロールプレイングゲームが全盛だった頃にゲームを遊んでいた世代である20~45歳をメインターゲットとして考えていますが、その世代は「セーブポイント」=「クリスタル」の図式が思い浮かぶのではないでしょうか。

 

実際にはセーブポイントの形はゲームごとに異なるのですが、青白く光るクリスタル=セーブポイントを想像する人は多いと思います。自分と同じ経験をして、同じイメージができる人たちがお金を持つ年齢になったことで、このようなグッズでも購入してもらえるようになったと感じます。

 

また、「誰も作っていない物を作ること」も大きな要因でしょう。市場に出にくいものであれば、市販ではなく個人での販売でも購入してもらえます。また、価格競争にならないことも重要です。消費者に「安いものでいいや」と考えられてしまうと、制作者が生活できなくなってしまいます。

――最後に、今後の展望についてお聞かせください。

商品のバリエーションとしては、以前制作していた「ワタリ硝子のナイフ」や「将棋コンバット」を復刻したいです。また、「卓上セーブポイント」についても、制作の手間を減らしながら、クオリティをアップしたいですね。

 

現在はひたすら手作業で作っていますが、レジンを磨く作業を機械化したり、型の精度を高めて磨かなくても良くしたりするなど、自分の手を動かさない方法も試せればと思います。

Interview
橘川匠さん
橘川匠さん

「くだらないもの工房」店主。卓上セーブポイントやワタリ硝子のナイフをメインにさまざまなものを制作・販売している。 Twitter ID:@takumi_trush

▼くだらないもの工房
http://kudaranai.blue/

▼通販サイト
https://kudaranai.stores.jp/

「デザインフェスタ45」出展情報 5月27、28日 東京ビッグサイト 東5678ホール ブースナンバー:G-403,404,405(共同出展:マホウネコセーブポイント)

Writer Profile
杉山大祐
杉山大祐

有限会社ノオト所属の編集者、ライター。Twitterの話題をニュースにする「トゥギャッチ」の編集やスポーツ系SNS運用を担当。家庭用ゲーム機からPCゲーム、アーケード、アナログゲームまでさまざまなジャンルを遊ぶ無類のゲーム好き。Twitter ID:@doku_sho

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