法人から個人事業主に戻したのはなぜ?ミニサイト作り職人、和田亜希子さんの選択

個人で事業を営み、その規模が大きくなってくると、法人化(法人成り)を考える人は少なくありません。しかし、その逆である会社から個人事業主へ戻す「個人成り」を選んだ話を聞く機会はなかなかないもの。

 

ミニサイト(※1)作り職人でアフィリエイターの和田亜希子さんは、2001年に個人事業主から法人化したものの、2012年に個人事業主に戻しています。会社をたたんだのには、どんな経緯や理由があったのでしょうか。お話を伺いました。

上司の一言が、アフィリエイターとしての道を拓く

――そもそも、和田さんがアフィリエイトに興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか?

1998年に検索エンジンのライコスジャパンに勤めていたときに、アフィリエイトの勉強を始めたことですね。仕事の一環だったのですが、上司が「インターネット広告の次は、アフィリエイトがくる。今のうちに情報収集をしておけ。検索エンジンにとっても重要になってくるから」と。上司にこう言われなかったら、目の前の仕事に手いっぱいでアフィリエイトに携わることはなかったかもしれません。そう思うと、あのときの上司の言葉は大きいですね。

 

その頃はまだ日本にアフィリエイトに関する情報がなかったので、英語で情報を収集していました。それもあって、個人で「アフィリエイトINDEX」というアフィリエイトプログラム情報サイトを1999年に立ち上げました。検索エンジンも面白いけど、アフィリエイトへの興味が高まり、それに関連する仕事をしたいと思うようになったんです。でも、当時は日本にASP(※2)が立ち上がっていなかったので、アフィリエイトの仕事をする機会がありませんでした。

 

そうしたら、ちょうどそのときに一緒に仕事をしていた企業から「アフィリエイト事業を考えているから来ないか」と声をかけられたんです。それで転職をしたのですが、アフィリエイト以外の業務で忙しく……。ちょうどネットバブルの時代だったこともあり、激務で体調を崩してしまい、退職することにしました。

休養後に転職する予定が、思いがけず独立&法人化に

――会社を辞めることに、不安はありませんでしたか?

最初に就職した銀行員時代から貯金をしていましたし、転職してからはネットバブルで遊ぶ暇が全然なかったんです。だから、30歳くらいで貯金が約1,000万円はあったのかな。金銭的な不安はそこまでありませんでした。

 

アフィリエイトの存在を知っていたことも、自分の中で支えになっていたと思います。というのも、アメリカではアフィリエイトで生活できている人がいましたし、日本はまだその状況ではなかったけど、数年したら日本もそうなるだろうという予感がありました。

 

でも、だからといって独立しようとは思っていなかったんです。少し休んだらアフィリエイトに関連する企業で働こうと思っていましたから。

――では、どうして独立することに?

流れです(苦笑)。まだ私が前職に勤めていた頃、アメリカ最大手のASPであるLinkShareを三井物産が一事業として手掛けることになったんです。

 

私が個人で運営していた「アフィリエイトINDEX」では、アフィリエイトマーケティングとは何か、個人がアフィリエイトをするにはどうしたらいいのかといった情報を発信していました。そこで、三井物産に取材申込をしたところ、担当マネジャーとお会いする機会に恵まれて。私もアフィリエイトに関する知識があったので興味をもっていただき、それで前職を辞めると連絡したら、「うちで仕事あるよ」と言ってくださったんです。

 

ただ、三井物産では個人に仕事を発注できなかったんですね。会社を退職後はフリーで前職時代の知人から仕事を請けていましたが、今後アフィリエイトの需要が増えるだろうと思ったこと、大企業と仕事をするなら契約上どうしても法人格が必要だったこともあり、有限会社を立ち上げました。独立して半年後、2001年の12月のことです。ちなみに、有限会社設立に必要な300万円の資本金はすべて自己資金でまかないました。

――一般的に、個人事業主が法人化を考える様になるタイミングは、売り上げ1,000万円超えが目安ともいわれますが、それは視野になかったのでしょうか?

なかったですね。売り上げは月に20~30万円くらいでしたから、年1,000万円に届くわけもなく。私の場合は人を雇う気がなく、オフィスを新たに新設する気もなかったので、法人化したといっても一人親方の状態。契約を取りやすくするために法人化したので、税制上のメリットは考えませんでした。

――そのときの売り上げは、三井物産との仕事のように業務委託が中心だったのでしょうか?

はい、自分のサイトのアフィリエイト収入はほとんどなかったので、受注仕事が売り上げのほとんどを占めていました。主な仕事内容は、アフィリエイトの運用代行や当時盛り上がり始めていたブログマーケティング関連です。それにアフィリエイトに関する講演の依頼がきて5万円が入る、みたいな状態でした。

仕事の受け方の変化によって、法人である必要性がなくなっていく

――和田さんが再び個人事業主に戻したのは2012年ですよね。法人立ち上げから10年後、どうしてその選択を選んだのでしょう?

2009年くらいまでは業務委託を中心として仕事をしていたのですが、家庭の事情でそうした仕事の引き受け方が難しくなってきたんです。会社といっても私の場合は一人ですし、自分が働けないと、取引先に迷惑がかかってしまいます。なので、業務委託の仕事を減らすことにしました。

 

私の場合、そもそも法人化したのは業務委託の契約を取りやすくするためだったので、業務委託を減らしていくなら法人でも個人でも関係ありません。アフィリエイトはそのどちらでもできますから。

――業務委託縮小の決断には、アフィリエイトの収入増もありますか?

ありますね。アフィリエイトの運用代行などに携わる手前、仕事の一環で事例を作るために複数のミニサイトを運営し始めました。さらに、そこで得た知見をアフィリエイトの事例紹介資料に盛り込んで講演仕事につなげる流れもできましたね。

 

一例を挙げると、ショッピングモールのようにいろんな商品を扱うサイトを作ったら、その中で取り扱ったロフトベッドがすごく売れ始め、それだけで報酬は月10万円以上になりました。そうして徐々に業務委託と同じくらいの収入が入るようになり、ようやくアフィリエイトの時代が来たな、と。個人のアフィリエイターとしても認知されるようになり始めましたね。

――とはいえ、業務委託の分がなくなったら、収入は半減ですよね。アフィリエイトで定期的な収入は見込めるものなのでしょうか?

私は気楽な独り身なので、生活費を計算したら年収400万円あれば大丈夫だと判断しました。月にすれば、30万円超。

 

もしその月30万円を1つのサイトで得ようとしたら、不安だったと思うんです。そのサイトに対する需要がなくなったり、強力なライバルサイトができたりしてしまったら、収入源が断たれるわけですから。業務委託を減らしていこうと思った2009年の時点で、収益化できているサイトは5つありました。

 

ただ、収入のある既存サイトもいつどうなるかはわかりません。ですから、育っているサイトがある一方、新しく立ち上げるサイト、これから育てていくサイトというように、種をまいて、葉が出て、花が咲くというイメージでサイトを運営していました。複数で収入を得て、リスクヘッジをすることは常に心がけていますね。

理想のライフスタイルを目指し、個人事業主へ戻すことを決断

――法人から個人事業主に戻すのにも、手続きが煩雑と聞きました。

会社をたたむには、解散や清算結了の登記の手続きが必要です。法人化に関する情報はたくさんあるのですが、その逆はあまりないことに驚きましたね。あとは、官報に公告を出す手続きもします。しかも、公告を出すにもお金がかかるんです(苦笑)。

 

ただ、会社の場合は本社移転するだけで登記変更が必要になり、万単位の印紙代がかかります。さらに個人の確定申告と法人の決算では、明らかに確定申告の方が楽でした。

 

私は2011年の東日本大震災後、しばらくボランティア活動に参加していたのですが、業務委託がなければ自由に自分の住みたいところに住み、仕事の傍ら自分がやりたいことにも同時に取り組めるということを実感しました。そうしたライフスタイルを目指したいと思ったこともあり、法人であり続けることと、個人事業主に戻す際の手続きの手間を天秤にかけたら、個人に戻した方がいいと考えたんです。

――2012年12月に個人事業主に戻し、そこから5年近くが経ちました。今後はどういった働き方を目指していますか?

2016年度の売り上げは、アフィリエイトやグーグルアドセンス、純広告を含めて1,000万円でした。手取りは600~700万円くらいなので、アフィリエイターとしては飛び抜けて収益がいいわけではありません。クレジットカードや化粧品など、扱う商材によっては売上3,000万円超のアフィリエイターはざらにいますから。収入面の目標では、手取りで1,000万円いくようにしたいとは思っています。

 

好きなことができて、好きなところに住めるライフスタイルの実現まであともう一歩。ミニサイトでは、まだ経験のない物販にチャレンジしたり、数年前に始めた中国語を生かした中国語のサイトを立ち上げたりしたいと思っています。

 

※1 ミニサイト
和田さんが命名。「絞り込んだニッチなテーマ」「コンパクトサイズ」「全体設計でかっちり」「短期で制作可能」の4つの特徴を持つ専門サイト。

 

※2 ASP(アフィリエイト・サービス・プロバイダ)
アフィリエイトを配信するサービスプロバイダ。

Interview
和田亜希子さん
和田亜希子さん

大手銀行や検索エンジンなどの勤務を経て2001年に独立。同年に法人化し、2013年に個人事業主へ戻す。主に運営サイトの広告収入で生計を立てる。「PC一台携え、旅しながら生活する」ベドウィン・モバイラーの夢まであと一歩。
▼WADA-blog(わだぶろぐ)
http://wadablog.com/

Writer Profile
南澤悠佳
南澤悠佳
ノオト

有限会社ノオトに所属していた編集者、ライター。得意分野はマネー、経済。

Twitter ID:@haruharuka__

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