3Dプリンター、ヘッドマウントディスプレイ、受付用ロボット。新技術で登場したモノの耐用年数は?
2020.02.18

「3Dプリンターって、解釈によって耐用年数が数年異なることがあるんですよね……」

先日、会計業に携わる人が漏らしたこんな一言。聞けば、新しい技術で生まれたモノは、従来の耐用年数表のどこに当てはめるかの判断が難しく、公認会計士や税理士によって、解釈が微妙に分かれることがあるのだとか。

 

個人事業主や会社が業務に必要なモノを購入する場合は「経費として落とす」ことができます。このとき、10万円未満あるいは耐用年数1年のモノなら消耗品費として処理します。さらに、10~20万円、20~30万円、30万円以上と、モノの価格によって一括償却資産(1/3ずつ3年間で経費にする)にでき、耐用年数に応じて減価償却をするケースなどもあります。

 

今回は、業務に使う可能性が高く、判断に悩みそうな6つの製品、「3Dプリンター」「ヘッドマウントディスプレイ」「パーソナルモビリティ」「超小型EV」「ドローン」「ロボット」をピックアップ。税理士と公認会計士の3人に、耐用年数をどのように考えるか、解釈を伺いました。

 

なお、本稿は三者への個別取材をもとに、要旨を座談会風に再構成しています。

注)
「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」や「中小企業等投資促進税制(中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は税額控除)」などの制度は適用しないものとして考えます。

 

【お話をお聞きした専門家】

  • 安藤かずえさん
    税理士。F&Mパートナーズ税理士法人東京事務所代表。事業承継や相続税などのセミナー、新規事業開業支援を得意分野とする。
    ▼F&Mパートナーズ税理士法人東京事務所
    http://www.fmpt.jp/
  • 伊藤英佑さん
    公認会計士・税理士。法人・個人への資産管理や税務対策、ベンチャー企業への支援などに従事。資産運用にも詳しく、同世代の長期資産形成への取り組みに関心が高い。
    ▼伊藤会計事務所
    http://e-suke.sakura.ne.jp/index.php
  • 高橋創さん
    税理士。会計事務所勤務を経て、2007年に「高橋創 税理士事務所」を開業。新宿ゴールデン街にBar「無銘喫茶」を構え、確定申告前の時期になると、さまざまな人の確定申告の相談に乗る「確定申告酒場」を開く。
    ▼高橋創税理士事務所
    http://namahage-tax.jp/

複写機と考えるか否かで解釈が分かれる「3Dプリンター」の耐用年数は?

――まずお聞きしたいのは、3Dプリンターの耐用年数です。これは、何年と考えるのがいいのでしょう?

安藤さん:耐用年数を考えるとき、大前提になるのが「そもそも、なんのために使うのか?」です

高橋さん:たとえば、数十万円単位の製品をコワーキングスペースのような場所でみんなが使えるようにするのか、それとも数千万円単位をかけて3Dプリンターを活用した製造ラインを導入して製品を作り、ECサイトなどで定期的に販売するか。そういった用途や規模で判断が分かれそうですね。

 

伊藤さん:もし前者であれば、耐用年数表の「器具・備品」に該当し、後者であれば「機械及び装置」になるでしょう。

 

高橋さん:僕は「器具・備品」で考えるなら、構造・用途は「事務機器、通信機器」で細目の「複写機」と同様に考えて、5年ですね。できあがるものが、平面か立体かの違いだけですから。

「機械及び装置」の場合は、農業や林業、製造業と、”業”に紐づきます。3Dプリンターを使ってどの業のものを作っているかで判断します。もし家具を作っているなら、「家具又は装備品製造業用設備」として11年かな。

 

安藤さん:私も「器具・備品」の場合は、「複写機」で5年ですね。「機械及び装置」のなかで考えると、素材がプラスチック製であることが多そうなので、もしそれなら「プラスチック製品製造業用設備」として8年でしょうか。

 

伊藤さん:正直、私は複写機かというと、少ししっくりこなくて……。「器具・備品」の「その他の事務機器」と捉えて5年かな。機械で考えた場合は「その他の小売業用設備」の「その他の設備」の「その他のもの」で8年にします。

 

高橋さん:基本的に、どれにも該当しないなと思ったら、「その他のもの」を選んでおけば、間違いないです(笑)。

 

結論:複写機用途なら5年、製造設備なら8年

通信機器?音響機器?「ヘッドマウントディスプレイ」の耐用年数は?

――ヘッドマウントディスプレイはどうでしょうか? 最近は数万円で手に入ることもありますが、たとえばMR(Mixed Reality:複合現実)の開発用は30万円以上もすることもあります。

伊藤さん:え~! 難しい……。音響機器で5年というのも妥当そうですね。ただ、これって、通信することもあるんですよね。そう考えると、「器具・備品」の「事務機器、通信機器」にある、「電話設備その他の通信機器」の「その他のもの」で10年かなぁ。実際にはどういう用途で購入したかなども踏まえて当てはめる感じでしょうか。

 

高橋さん:映像などを楽しむことを考えて、「器具・備品」の細目にある「ラジオ、テレビジョン、テープレコーダーその他の音響機器」として5年!

 

安藤さん:通信の要素もありますが、インターネットで何かをやりとりするよりも、「見て楽しむ」要素が強い気がしますね。それに近いもので考えると、私も「ラジオ、テレビジョン、テープレコーダーその他の音響機器」として5年にします。

 

結論:通信機器として考えるなら10年、音響機器として考えるなら5年

今後、普及は加速する?「超小型EV」の耐用年数は?

――もし、「超小型EV」を業務用の移動手段として購入したら、耐用年数は何年になりますか?

高橋さん:これは「車両及び運搬具」に該当でしょうね。たとえば、トヨタのコムスの時速やサイズを見ると、これは小型自動車に当てはまりそうなので、4年。

 

伊藤さん:私も同様に4年です。

 

安藤さん:もう少し丁寧に説明すると、「車両及び運搬具」の構造用途には「運送事業用・貸自動車業用・自動車教習所用の車両・運搬具」と「前掲以外のもの」があります。「前掲以外のもの」とは一般用のものという捉え方ができるので、超小型EVは後者に属し、そのなかでも「小型車(総排気量が0.66リットル以下)」になります。

結論:超小型EVは4年

車両になる?「パーソナルモビリティ」の耐用年数は?

――タイヤつながりで、セグウェイなどに代表されるパーソナルモビリティも同様でしょうか? たまに1輪もあります。

安藤さん:調べたら、道路交通法の「車両」には該当しないんですよね。でも、「運搬具」であるとはいえるので、これも「車両及び運搬具」から考えるかなぁ。先ほどと同様、一般用のものとして考えて、タイヤの数で考えます。2輪なら、「二輪又は三輪自動車」の3年、1輪なら、「その他」の「その他のもの」で4年にします。

 

伊藤さん:リヤカーが「車両及び運搬具」に含まれているぐらいなので、パーソナルモビリティもここでしょうね。「二輪又は三輪自動車」扱いで3年。

 

高橋さん:すみません、僕、これとある販売元に聞いちゃいました。そうしたら、用途によりますが、基本的には3年ですと言われたので、それで(笑)。

――いや、そこは考えてください!

高橋さん:うーん……個人的に使うなら「器具・備品」の「娯楽・スポーツ器具」でもいいかと思うのですが、該当しそうなものがないですね。そうなると「車両・運搬具」か。ゴルフカートは4輪だと小型車として4年で、3輪だと「二輪又は三輪自動車」で3年に指定されていますね。それと同様に考えて、3年! まぁもう3年って聞いていますから(笑)。

結論:二輪又は三輪自動車に該当するなら 3年

ドローンの耐用年数は?航空法適用以前と以後で解釈が分かれる?

――念のため販売元に確認したのですが、200グラム以上のドローンは、航空法適用でした。となると、これはもう答えが出たようなもの……?

伊藤さん:そうですね。航空法が適用されるなら、「航空機」の項目で構造用途は「その他のもの」になり、さらに「その他のもの」で5年ですね。

 

安藤さん:航空法が適用される前は、測量用なら10年、農業用なら7年とありましたが、現在は5年ですね。

 

高橋さん:ドローンは5年でしょう。ちなみに、UFOもおそらく「航空機」→「その他のもの」→「その他のもの」で5年です。いつ減価償却資産として計上するかはわかりませんから。

 

――UFO……。

 

結論:ドローンは5年

広告塔か、それとも……受付に「ロボット」を導入したら?耐用年数はどうなる?

――最後に、受付用にPepperのようなロボットを導入したらどう考えたらいいのでしょうか?

安藤さん:実は、次世代ロボットについては数年前に一つの解釈が提示されていて、店舗内で使用するロボットは宣伝用なら、「器具及び備品」→「看板及び広告器具」→「その他のもの」→「主として金属製のもの」で10年という意見があります。

 

伊藤さん:ただ、「看板及び広告器具」かというと、純粋な広告宣伝用とも言えない場合があると思うので、悩ましいな……というのが正直なところですね。もし「看板及び広告器具」以外にするとしたら、「器具及び備品」→「家具、電気機器、ガス機器、家庭用品」→「その他のもの」→「主として金属製のもの」として15年もありえるかもしれません。

とはいえ、耐用年数は短いほうが早く費用化できて税制上有利になるので、本来の目的を考慮したうえで、10年を選択するかも。

 

高橋さん:僕も「看板及び広告器具」が引っかかるんですよね。広告かなぁっていう。たとえば、「器具・備品」の「事務機器、通信機器」のところに「電子計算機」があります。ここにはPCが含まれていて、PCの耐用年数は4年。ちょっと人の形をしたPCって考えれば4年でしょうか。それか、「その他の事務機器」で5年とも考えられますね。これは悩みますね。

 

結論:受付用ロボットは、最短4年、最長15年

まとめ

公認会計士、税理士の3人にそれぞれの製品の耐用年数に関する解釈を聞きましたが、実務で耐用年数を考える場合は、販売元や国税庁、税務署に耐用年数を確認し、すりあわせていくこともあります。

 

耐用年数は用途に応じて、きちんとした根拠を示せれば解釈によるブレがあってもさほど問題はないようです。今回の年数はあくまで一例のため、確定申告時には必ず専門家の意見を仰ぐことをおすすめします。

Writer Profile
南澤悠佳
南澤悠佳
ノオト

有限会社ノオトに所属していた編集者、ライター。得意分野はマネー、経済。

Twitter ID:@haruharuka__

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