夏のおでんバーは儲かるの? べろべろばーの店主に経営事情を聞いてみた

「暑い夏は冷えたビール」「寒い冬は温かい鍋」と、季節によって人々は異なる食欲が掻き立てられます。しかし、その逆を突き、某有名アイスメーカーは暖房を効かせた冬のパーティーシーズンを狙って売り上げを伸ばしているという話を聞いたことも……。

 

そして、冬の風物詩といえば、おでん。熱燗と一緒で体を温めるには最高の料理ですが、夏場はそこまで食べたくなったことがないような気も。はたして、年中おでんを提供しているお店は、これから暑くなる季節ってどうなのでしょうか?

 

2016年3月、東京・不動前に「京都の日本酒とおでんの店 べろべろばー」をオープンした藤村晃平さんに、これまでの経営から見えてきた季節の傾向や売り上げ変動について話を伺ってみました。

おでんなら、チェーン展開しやすいと思った

――藤村さんが飲食店を開業された経緯を教えてください。

高校卒業後、地元・京都から大阪にあるスポーツの専門学校に通っていました。その後、新卒でプロの方向けのスポーツトレーナーとして就職したのですが、専門学校時代に経験したチェーン系焼肉店でのアルバイトがとても楽しかったんです。その印象がずっと残っていて、いずれは飲食店を経営したいと思っていました。

 

そして3年ほどスポーツジムで勤めた頃、プライベートで首の怪我をしてしまい、1年ほど療養生活を余儀なくされてしまったんです。それを機に、本当にやりたいことをやろうと思い、回復後は心機一転、上京して代官山のイタリアンのお店にウエイターとして転職しました。25歳のときですね。

――その後、2013年に目黒新橋でカウンターのみの居酒屋を開業し、2016年にはこちらのおでんバーをオープンしました。なぜ、おでんだったのでしょうか?

もともと、飲食店を経営するなら多店舗展開が目標だったんです。目黒新橋の「京都バル べろべろばー(現:日本酒とおでん 目黒新橋べろべろばー)」の2号店としてこの店を開く際、やるなら和食がいいな、と。

 

そこで、おでんだったら焼肉同様、レシピやマニュアルさえきちんと決めてあれば、アルバイトさんでもお店を回せるんじゃないかと考えまして。すごく単純な話なのですが(笑)。

――でも、藤村さんがずっとお店に立たれているんですよね?

はい。実際始めてみると、これが結構、難しくて。おでんの具も、ただ茹でればいいというわけではありません。たとえば、じゃがいもはだしの温度が1℃上がっただけでも割れてしまうんです。

 

なので、当初の計画から変更して、目黒新橋の店をスタッフに任せて、自分がこちらのお店に立つことにしました。15時開店と同時に仕込み始めて、17時頃には大根がおいしく食べられるようにしています。

おでんは広告塔のようなもの

――そうやって時間や手間をかけているのに、おでんって単価が安いですよね。利益は出るのでしょうか?

1本200円の大根を分割して150円で売って……と考えると利益率はいいのですが、正直おでん単体では利益はそこまで出せません。おでんネタは概ね単価150円なので、全種類ご注文いただいたとしても、そこまで大きな売り上げにはならないんです。

――そうですよね……。それに、おでんは夏になるとさっぱり売れないというイメージもあるのですが、実際はどうなのでしょうか?

実は一年を通して、おでん単体の売り上げのギャップってそこまでないんですよ。

たとえば、冬から夏でおでんの注文個数が減るとか、真夏はご新規グループの飲み会ではおでん屋を選ばないとか、7月~9月まではおでんは弱いかなとか、確かにそういう感じはします。でも、さきほども話したように、おでん単体のそもそもの売り上げウエイトが低いので、売れなかったときのダメージも少ないんです。なので、特別な対策もしていません。

 

稀に「冷やしおでんを出してみたら?」とご意見をいただくこともあるのですが、やっぱりおでんは温かいからこそおいしいと思うので、絶対やらないですね(笑)。

――売り上げにもっと波があるのかと思っていましたが、意外にも季節に左右されないんですね。やはり売り上げを支えているのは、ほかのお料理やお酒ですか?

おでん以外のフードはおばんざいを用意しているのですが、一品600円~700円前後で、僕としてはお通し的な位置付けです。いうなれば席料みたいなイメージでしょうか。

売り上げを考えると、やはり「お酒をいかにたくさん飲んでいただくか」が大きいですね。無理やり飲ませるようなことはもちろんしていませんが、会話を楽しみながら、月ごとにオススメの銘柄や新酒、冷おろしなど季節ごとに新しいお酒を投入して、お客さまが飽きないよう変化を持たせるようにしています。

 

お客さま一組あたりの滞在時間はだいたい2~3時間、しっかり食べて飲んで4,000円くらいで満足していただいているかな、という感じです。

――なるほど。季節感の演出など、売り上げ対策が必要なのはお酒なんですね。おでんはあくまで付加価値といいますか。

はい、おでんは売り上げを支える商品というより、お店の広告塔のようなものですね。やっぱり日本人はおでんが好きなので、集客のフックになりますし、来店されたお客さまがSNSにおでんの写真をアップしてくれます。

 

極端な話、おでんは売れたらラッキーくらいに思っているんです。実際、ほぼ毎日いらっしゃる常連さんの中には、月に1回おでんを召し上がるかどうかという方もいるんですよ。

開業費用を2カ月で回収し、その後の売り上げは……

――売り上げが一番よかった時期っていつですか?

オープンバブルのあった3カ月ですね。当初はオープン半年くらいで初期費用の240万円を回収できればいいと考えていたのですが、オープン2カ月で回収できましたから。

――それはすごい! というか、おでん屋さんってそんなに安く開業できるものなんですか?

うちはそもそも家賃が安いことに加え、おでんの什器も電気の保温ウォーマーで、これは一台3~4万円くらいと意外に安いんですよ。結果、すべて自己資金でまかなえました。

――なるほど。反対に、売り上げが史上最低でピンチを迎えた月は?

売り上げが厳しいというのは、日単位ではありますかね。今日は22時になってもノーゲストか……みたいな。そういうときは焦ってもしかたがないので、ネットサーフィンしながらひたすらお客さんを待っています(笑)。その代わり、別の日で挽回できるよう頑張りますね。

――売り上げ目標は1日単位で緻密に立てられているんですか?

平日・金曜・土日のくくりでそれぞれ目標額を決めて、毎月、届くかな、ちょっと届かないかな……くらいの少し高めの売り上げ目標を設定しています。それでだいたい予測していた金額をクリアしたら、次の月はもうちょっといけるんじゃないかと、1日5,000円ずつ引き上げていく。そうすると、案外、引き上げた金額に追いついていったりするんですよね。

 

当初は、場所もローカルなエリアだしと気楽に構えて、月売り上げ100万円を目標にし、その半分くらいが利益として残ればいいなと思っていたのですが、おかげさまで最初の目標はクリアできています。

40歳までに5店舗展開を目指して

――以前、お店にお邪魔したときに、平日にもかかわらずほぼ満席状態で驚きました。普段はどんなお客さまが多いんですか?

30代~50代の男性が中心で、圧倒的に地元の方、しかも駅から自宅までの帰り道に寄られる方がほとんどです。このまま家に帰るのも何だかつまらないなとか、なんとなく誰かと話したいなという感じで、週3~4日や、出張などがない限り毎日来てくださるお客さまもいらっしゃいます。なので、どちらかというと平日の方が混みますね。席数14席に対して常時満席とはいかずとも、だいたい3回転はします。

 

不動前は繁華街ではないし、うちは駅からも離れているので、完全に地元密着型です。なので、近隣の方のコミュニティスペースみたいになっているんでしょうね。

 

あとは最近、近くに外国人向けのゲストハウスができたようで、海外からのお客さまも増えました。ありがたいことに、徐々にお客さまが定着してきているように感じています。

――地元密着型だと、常連さんが引っ越してしまうと来られなくなるというデメリットもありそうですが、新規のお客さまを獲得する工夫はされていますか?

昨年の夏から、目黒不動尊の縁日(毎日28日)に、商店街の一角をお借りしておでんを出していて、これが一つの宣伝になるかと考えました。ただ、目黒新橋の店舗のリニューアルもあっていま人手が足りなくて、最近は出せていないのですが(苦笑)。

 

また、この物件の決め手となった理由でもあるですが、この場所って思ったより通りから目に付くんです。僕がなんとなく物件を探し始めたころに、この道(目黒不動尊までの参道)を歩いていて、「テナント募集」の貼り紙をたまたま見つけたんですね。ということは、普通に歩いていても人目を引くのだろう、と。なので、貼り紙がしてあった場所と同じ位置に店のロゴを貼っています(笑)。

――お店を出すなら、そういう視点は大事ですね。最後に、今後の展望を教えてください。

僕はいま35歳で、40歳までに5店舗を展開することが目標なんです。単純計算で1年1店舗。目黒、不動前を中心に、五反田や武蔵小山など、近隣で開業していけたらと考えています。もちろん、おでんでやりたいですね!

Interview
藤村晃平さん
藤村晃平さん
Writer Profile
皆本かおり
皆本かおり

編集者・ライター。カルチャーやライフスタイルの分野を中心に、雑誌・WEB、企業のオウンドメディアにて執筆。ライター業とは別に、セレクトショップの広報も担当している。

Free Download 無料ダウンロード資料
確定申告の基礎知識に関するマンガや資料を
無料でダウンロードいただけます。