「納期厳守とクオリティの維持が次の仕事を呼び寄せる」コピーライター歴25年の山田晶子さん

読む人の心を動かす言葉を紡ぐ「コピーライター」。普段目にするポスターやCM、パンフレットのキャッチコピーや説明文の多くは、コピーライターによって生み出されています。広告業界になくてはならない職業ですが、フリーランスとして食べていけるのか気になるところ。

 

今回お話を伺ったのは、25年のキャリアを持つベテランコピーライターの山田晶子さん。会社案内や製品パンフレット、WEBサイトなどのコピーや文章を数多く手掛けながら、副業で「こけしマッチ制作所」として雑貨販売なども行っています。山田さんに仕事を始めたきっかけや、長く仕事を続ける秘訣について聞いてみました。

学生時代に公募で賞金を稼いだことがコピーライターの道をひらく

――山田さんがコピーライターの道を進もうと思われたきっかけを教えてください。

大学時代、将来どんな仕事に就きたいか分からず悶々としていたときに、公募ガイドを買ってみたり、目についたコンテストに応募したりしていたんです。そんな中、とある食品メーカーのCMのセリフの募集企画に応募したら、まさかの賞金50万円をゲット。アルバイト数カ月分の金額を楽勝で稼げたので、「コピーライターの仕事っておいしいかも」と思いました(笑)。

――コピーライターへの憧れというよりは、現実的に稼ぐことを念頭に置かれていたのですね。

そうですね。それからも、ちょこちょこ応募していたら、約2年間で100万円近く稼げたんです。それで、「これは向いているに違いないぞ」と(笑)。それで一度、しっかり勉強しようと思って、その賞金でコピーライター養成講座の通信教育を受けました。それくらいから、コピーライターの仕事をしようと思いはじめましたね。

――就活はどのようにしたのでしょうか?

最初は、広告代理店を3社ほどと、メーカーの広告部門をいくつか受けました。規模の大きい会社をメインに受けたのですが、ご縁がなく……。地元福岡にある20人規模の広告制作会社にコピーライターとして拾ってもらえました。

――駆け出しの頃は、どんな仕事をしていましたか?

広告制作の基本的なことですね。原稿整理を延々したり文字校正をしたり、地味な業務も多かったです。ただ、その会社にはディレクターやデザイナー、編集者と広告制作に必要な職種が揃っていたので、広告を作るプロセス全般を知ることができました。

――その会社は2年で退社されたとか。辞めようと思ったのはなぜだったのでしょう?

主なクライアントは地場の企業や役所で、冊子編集やラジオCMなどを手掛けていたのですが、もっと大きな会社の仕事をしたいと思うようになったからです。ちょうどそんなとき、大企業をクライアントに持つ大阪の制作会社がコピーライターを募集していて、応募してみたところ採用してもらえたので、辞めることにしました。

――大阪での仕事はいかがでしたか?

意気揚々と赴いたものの、案件の骨子は代理店が決めて、制作会社は地味な仕事がほとんどという現実に直面しました。とはいえ、先輩たちはアイデア段階から代理店と打ち合わせから絡んで、インパクトのある仕事をしていました。私はまだまだ下っ端だったので、大きい仕事ができるレベルじゃなかったんです。

▲顔隠しのキャラクターは山田さんが友人と一緒に18年前に立ち上げた雑貨の企画販売チーム「こけしマッチ制作所」の仲間が作ったもの

独立して1年はティッシュ配りのアルバイトで食いつなぐ

――その会社を最後に、フリーランスコピーライターとして独立されたそうですね。大学卒業後6年目のタイミングとのこと、かなり早い決断のような気が。

とにかく勤務時間が長くて、いわゆるブラック企業でした。徹夜もいとわない環境だったので、このまま働き続けると体か心が壊れると感じて辞めましたね。

――転職は考えなかったのでしょうか?

フリーランスを辞めて入社してきた方と、よく一緒にご飯を食べに行っていたのですが、「フリーの方が稼げる」と話していたんです。その方がフリーランスをしていたのはバブルの頃だったので、収入も高水準だったみたいなんですよね。会社で働く大変さを痛感したので、いろいろ話を聞いているうちに、フリーランスになる気持ちが固まりました。

――なるほど。ちなみに、独立時にどのような経費が掛かりましたか?

パソコン、プリンタ、机と椅子くらいですね。私はちゃぶ台で生活していたのですが、膝をやられると思って、椅子だけはいい物を買いました。コピーライターの独立で必要なものって、特にこれといってないですね。

――独立後の顧客開拓含めて、仕事の計画は立てていましたか?

どうやって顧客を開拓しようって考えていたのか……正直なところ昔過ぎて忘れちゃいました(笑)。それよりも会社から解放されたい気持ちが大きかったです。でも、準備してから辞めないとダメですね。結局、1年近くはティッシュやチラシ配りのバイトをしながら食いつないでいましたから。単発のバイトだと時間の自由が利くので、1日4時間くらい働いて、空き時間を利用してコピーを作っていました。そうしているうちに、知り合いから広告会社を紹介してもらうことも。ほかにも新聞に「外部コピーライター募集」と出ているのを見つけたら、電話して営業に行きました。割と地道に広げていったかたちです。

――営業で気をつけていたことはありますか?

営業に行った会社で、作品集を見てもらったときに、「人に見てもらうんだからこんな汚いクリアファイルじゃダメだよ」って言われたことがあって。そういうところをもうちょっと、ちゃんとしようと思って、それからは作品集の見栄えやファイリングの仕方も気をつけるようにしました。

クライアントが伝えたいことを文章に落とし込む

――いまはどのような仕事がメインでしょうか?

会社案内のパンフレットが多いですね。仕事内容としては、たとえばページの見せ方から一緒に考えるケースもあれば、各ページで企画は決まっていて、必要な項目の文章作成を依頼されるケースもあります。仕事のメインは長いお付き合いの制作会社から依頼いただくかたちです。収入の半分はその1社経由で、あとは不定期で4社くらいから依頼を受けています。

――クライアントから継続して選ばれるのはなぜだと思われますか?

キャリアが長いので、安心感があるのかなと思います。正直、自分はコピーライティングがそこまでうまいわけではないのですが、プロとして毎回一定のクオリティを担保するようにしているので、依頼主にはそこを評価していただけているのかなと。

 

コピーライターは、「企業がお客さまに伝えたいことを文章で表現する人」で、企業の代弁者です。だから自分の意見は1ミリも書いていません。そこをわきまえていること自体が、強みかもしれませんね。あとは、パンフレットを作るにあたり社員インタビューが必要なこともあるのですが、うまく話せない人もいるので、答えやすいように質問を言い換えたり、言葉を引き出すような聞き方をしたりします。これは場数というか、経験があって身についたことかもしれません。

年収の目標は「一人で生きていけるライン」に設定

――では、少しテーマを変えて。お金のことを教えていただきたいのですが、収入の目標は立てていますか?

自分ルールとして、1日あたり2~3万円を稼ぐことを目標にしているんですよね。それは、単純に最低でも月40万円ないと生活がきびしいと思っているからです。年収500万円くらいあれば、一人暮らしでもやっていけるかなと。本当はフリーならもうちょっと稼がなきゃいけないとは思っているんですけど、現実はそんなに甘くはないですね。

――収入面もですが、フリーランスコピーライターを長く続けること自体、簡単ではなさそうなイメージがあります。

一定のクオリティの納品物を締め切りにきちんと渡すことができれば、次が来ると信じているんですよね。目の前の仕事をちゃんとやること。専門性を固めずに、「どんなジャンルでも、紙でもウェブでも一通りできます」と言って、間口を広くしているので、相談しやすいというのもあるかもしれません。

 

あと、サムネイル(広告や誌面のイメージを簡単に視覚化したもの)を書けるので、打ち合わせしながら簡単に書いて、後日綺麗に書き直したものを制作会社の人にお渡しすると、「ここまでしてくれて助かります」って言われます。サムネイルの作成はコピーライターの役割の範疇をやや超えていますが、営業時のウリになるので、私ならではの付加価値かもしれません。

――パフォーマンスを維持するために、ルーティンにしていることはありますか?

絶対に自分に課しているのは、締め切りを昼に設定して、午前中に文章をアウトプットすることですね。私は昼までしか頭がフル回転しないので、早いときは朝7時からスタートして正午までに仕事を終わらせるようにして、午後は取材や調べものに費やしています。フリーランスは、自分のコンディションに合わせたサイクルを確立することが大事なんじゃないかなと。

――自分のペースを掴むことが大事なんですね。では、ベテランの山田さんから見て、コピーライターに向いている人とは?

コピーライターは、企業の商品や名前を売るためのお手伝いをする人であり、自己表現できる仕事ではありません。有名なコピーライターでない限りは、すべからく黒子だと思うんですよね。文章を書くことで自己表現したいと思う人は、ブロガーや小説家としての活路を見いだすべきです。なので、ワードセンスも大事ですが、何よりリサーチ力がものをいう職種かな、と。

 

自分の頭の中だけで書けることは限界があるので、同業他社の書き方を調べたり、表現をアレンジしたり。人の心を動かして、感動させて、買いたいと思わせないといけないわけですから、それをわきまえて文章を作れる人が向いているのではないでしょうか。

――とても勉強になります。山田さんは、これからどのような仕事をしたいですか?

少し前まで、コピーライターは若いうちしかできないと思っていたんです。でも、年齢を重ねると介護用品や老眼鏡など、高齢者向けの商品で、実感を持って書けるコピーライターが求められていると気づいたんですよね。自分の年に合う仕事が来るようになって、ターゲットをシフトしていきながら食べていけそうだなと。コピーライターって、実は時代に合わせてできる仕事で、意外と潰しが利くなと思うんです。ただ、副業を5つくらい持ちたいですね。

――5つですか!?

はい。矛盾するようですが、コピーライターもいつまでできるか分からないので、リスクヘッジとして。いま仲のいい友人と「こけしマッチ制作所」と称して、こけしや相撲取りモチーフの雑貨を作って販売しています。

 

売上は月2万円程度ですが、お小遣い程度にはなっているかな。でも、そのノウハウをまとめた書籍『手づくり雑貨の売り方手帖』(毎日コミュニケーションズ)の刊行にもつながりましたし、これからもゆるく続けていければ御の字です。本業も副業もこれまで通り、粛々と稼いでいきたいですが、それって意外と大変なこと。いろいろ試しながら、時代に合った仕事を模索していきたいです。

Interview
山田晶子さん
山田晶子さん
フリーランスコピーライター。1969年福岡県生まれ。大学卒業後、福岡と大阪の広告会社にそれぞれ2年半勤務したのち、フリーランスに。2000年から友人と雑貨制作ユニット「こけしマッチ制作所」の活動もスタート。時間の自由がきくフリーの特権を生かし、2カ月に1回ほど海外1人旅に出かけている。 HP: https://www.kokeshi-m.com/yamada/
Writer Profile
末吉陽子
末吉陽子

編集者・ライター。1985年、千葉県生まれ。日本大学芸術学部卒。コラムやインタビュー記事の執筆を中心に活動。ジャンルは、社会問題から恋愛、住宅からガイドブックまで多岐にわたる。
▼公式サイト
http://yokosueyoshi.jimdo.com/

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