没頭する靴磨きを副業に!フリーランスデザイナー・阿部光希さんが2足のわらじを選んだ理由

フリーランスのグラフィックデザイナーとして、企業ロゴや名刺のデザインなどを手掛ける阿部光希(あべ ひろき)さん。24歳で独立するも仕事は鳴かず飛ばず。そんなとき、ひょんなことから靴磨きの魅力にとりつかれ、「シューシャイナー(=靴磨き職人)」として副業をスタート。現在は、デザイナーと靴磨きのダブルワークで生計を立てています。

 

副業を始めてから本業もうまくいくようになったと振り返る阿部さん。靴磨きを仕事にしようと思った背景をはじめ、副業を考えるフリーランスにとって、ためになるお話を伺うことができました。

伝説の靴磨き職人の技術で生まれ変わった、安物の靴と自身のメンタル

――阿部さんは、22歳で美大を卒業後、地元・仙台で新聞広告を制作する代理店に就職。2年で会社を辞めてフリーランスになられたとか。割と早めに独立を決意されたのですね。

そうですね。古い体質の会社だったのと、上京したいと思って退職しました。ただ、ずっと制作畑にいて営業をしたことがなかったので、仕事を取る方法が分からず苦労しました。1年くらいは、ライブの会場設営など日雇いの仕事で食いつなぎましたね。

――デザインの仕事だけで食べられるようになったきっかけは?

まずは、クラウドソーシングに登録して、デザインコンペで勝っている人たちを調べてみたんです。何が違うのかデータ化したところ、共通点が見つかり、それを取り入れてみたら勝率が上がって、結果が出るようになりました。

――すごいですね!

でも、商談がうまくいかなくて、受注できないことも多かったんです。正直、もう辞めようかなと思ったことも。そんなときに、もしかしたら身なりが良くないのかなと思いまして。

――どんな格好をしていたんですか?

就活で着ていたリクルートスーツで、靴もカバンも安物。これじゃちょっとな~と薄々気付いてはいて、ビジネスパーソンとしてふさわしいものを身に着けようと思い、スーツや腕時計、ビジネスバッグの一流店に足を運んでみたんです。とはいえ、全身揃えようと思ったら数百万円掛かる……。やってられない! と諦めました(笑)。でも、収穫もあったんです。それが伝説の靴磨き職人との出会いでした。

――伝説の靴磨き職人さんとは?

井上源太郎さんという日本指折りの職人です。かつてマイケル・ジャクソンやオードリー・ヘップバーンの靴も磨いたことがあるというレジェンドなんです。一流店訪問の一環で伊勢丹新宿店を偵察していた日に、靴磨きのイベントがあって、井上さんが無料で靴磨きしてくれるというので参加してみました。実際に磨いてもらったら、僕の安物の靴が見違えるくらいピカピカになったんです。

――磨く人によって、目に見える違いが出るんですね。

僕もびっくりしました。それから不思議なんですけど、その靴を履いて商談に行くと、受注できるようになったんです。

――なぜそんなに変わったのでしょう。

「足元を見られる」って言いますけど、ひとつにはそれがあって、印象が良くなったのかなとは思います。「靴がぬかりない人=丁寧な仕事をする人」と思ってもらえたのかなと。ただ、自分自身が変わったことが大きいかもしれないです。

――といいますと?

ほぼ新卒みたいな僕なのに、お会いするのは年配の社長さん。いま思えば、萎縮してしまってうまくしゃべれなかったんですよね。実のところ、僕めちゃくちゃシャイで、自分のデザインを一言でもディスられたら、心が折れちゃうんです(笑)。だから余計に、自信のなさが表情や態度に表れていたのかなと。

 

でも、絶対人に負けないと思えるものがあることで、自信が出るじゃないですか。もし全身200万円のコーディネートでキメている人でも、靴の手入れをしていないとなれば、若干優位な気持ちになれるというか。僕は、靴に自信を持つことをきっかけに堂々と話せるようになったんですよね。

靴磨きの初仕事を解禁したのは知人のスナック。それが副業への架け橋に

――それを機に、靴磨きに魅了されていったと。

そうですね。靴磨きはクリエイティブな感性も満たされるんです。仕上げに香水をつけて磨くこともあるので、香りについて学ぶようになりましたし、色や彫刻、絵画などの知識が役立つことがあります。やり始めるととまらないというか、単純にずっと磨き続けられるなっていう。実はいま、靴磨きのインスタライブが流行っているんです。一般の人が深夜にずっと靴磨きしている映像を流し続けているんですよね。きっと悪魔的な魅力があって、ハマる人はハマるのかなって。

――靴磨きを副業にしようと思ったのは、なぜだったのでしょう?

好きが高じたからですね。当時、自分は革靴を5足しか持っていなかったのですが、それだけでは飽きたらず、趣味で当時住んでいたシェアハウスの入居者全員の革靴を磨きました。その話を、「コワーキングスナック CONTENTS分室」のママをしているサエコさんにしたら、「うちのお店でお客さんを取ってみたら?」と言ってくれたんです。

――それは、渡りに船ですね。

本当に助かりました。仕事になっていなかったら今はなかったと思います。ありがたいことに、コワーキングスナックでの靴磨きをきっかけに、SNS経由や紹介でお客さまも少しずつ増えていき、お金を稼げるようになりました。

――ちなみに、どれくらいの儲けがあるんですか?

1回の靴磨きで、1万円~1万5,000円くらいですね。

――靴磨きにそれだけお金をかけられる人がいらっしゃるのですね。

コンサルタントや保険の営業をされている方が多いですね。みなさん、靴への意識が高い方ばかりです。

本業と副業で切り分けず、自分だけの「靴道」を広めていきたい

――ちなみに、どんなアイテムを使って靴磨きをするんですか?

靴磨きは、スキンケアやメイクの手順と似ています。フランネルという綿100%の布を使い、化粧水のように水分を与え保湿してから、乳液を塗ります。革ごとに水分量に気をつけないと、シミができてしまうので、かなり奥深い技術が必要です。最後はワックスで仕上げますが、これはファンデーションみたいなものですね。アイテムもいろいろ試して、これまでトータル15万円くらい経費で計上しました。

――趣味で考えたら高いかもしれませんが、仕事なら投資額としてはコスパがいいような。

技術さえ身に付けば、すぐに仕事にできますからね。フリーランスの醍醐味のひとつだと思います。突飛なことをしてもいいというか。

――確かに、ひとつの肩書きに縛られる必要はないですもんね。

お金のためだけではなく、好きなことをするために二番手仕事をするスタンスでいいんじゃないかなと思うんですよね。「好きなことはないけど副業には興味がある」という人なら、本業で会わないような人に会える仕事もいいと思います。僕はデザイナーなので、下手すると自宅に引きこもって1週間誰とも会わないことも。でも、それだけだと人生が充実しません。やはり人と会うことで気分転換になると思います。

――本業の稼ぎが足りずに副業を考える人もいるかもしれませんが、人生の充実度を上げるために副業を選ぶという考え方もありですよね。

僕自身、お金はいっぱい稼ぎたいとは思っています。ただ、それよりも自分の好きな靴磨きで誰かに喜んでもらいたいです。お金を稼ぐことは、誰かに喜んでもらってこそ得られると思うので、もっともっと喜んでもらうことを追求したいですね。あとは、僕のように人生を変えるきっかけになる靴磨きができたらいいなって。

――これから、どんなことにチャレンジしたいですか?

革靴って仕事の日しか履かない人も多いみたいなんです。日常のファッションには使えないと思われがちですが、実はデニムと合わせるのもかっこいいんですよ。ちなみに、靴磨きラバーの中では、革靴とデニムにユーモラスな派手な靴下をあわせるのが流行っています。そういう可愛くてちょっとしたオシャレを伝えたいなって。あとは、自分の手で革靴を作ってみたいですね。

 

それと、革靴をメインに「フリーランスカジュアル」のジャンルを築きたいです。その人の個性が伝わって、ゆるいけどオシャレなビジネスカジュアル、みたいな。

▲取材日の足元コーディネート。ピカピカに光っているつま先、遊び心のある靴下のデザインが素敵

――あれ、本業は?

もちろん本業も頑張っていますよ!(笑)。でも、どちらかというと、デザインの知見を革靴や靴磨きに融合させていきたいです。たとえば、何かのモチーフをマスキングして、それを革靴に貼ってから磨き、貼っていないところはピカピカにして光具合でデザインを楽しむとかおもしろそうです。その場合、ロゴデザイン等の技術を応用して手掛けるとなれば、本業の仕事になります。そう考えると、本業と副業で切り離す必要もないかもしれませんね。

Interview
阿部光希さん
阿部光希さん
グラフィックデザイナー、WEBデザイナー。クライアントの生の声をベースとしたグラフィックデザインに定評があり、150社以上のデザインコンペで優勝経験を持つ。そのかたわら、出張靴磨き師として活動。靴を鏡のように輝かせる技、鏡面靴磨きを得意としている。 Instagram: @baron_abe_shoes Twitter: @AbeDayo
Writer Profile
末吉陽子
末吉陽子

編集者・ライター。1985年、千葉県生まれ。日本大学芸術学部卒。コラムやインタビュー記事の執筆を中心に活動。ジャンルは、社会問題から恋愛、住宅からガイドブックまで多岐にわたる。
▼公式サイト
http://yokosueyoshi.jimdo.com/

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