
「子どもは欲しいけれども、仕事がなくなるのはこわい」。フリーランスは会社員のように産休や育休制度がなく、仕事を休めば当然無給になります。フリーランスとして働く女性たちは、一体どうやってこの問題を乗り越えたのでしょうか? そこで体験者たちに話を聞いてみました。
ケース1. 産後は、終わり時間が分かる仕事にシフト
フリーのヘアメイクとして独立し、現在ネイルサロンを経営する江利川美奈さん(40代)は、2人のお子さんを持つお母さんです。
「1人目の産休育休は不安だらけでした。出産予定日の1カ月前まで働き、産後は1カ月で復帰。仕事に差し障りがないよう、最小限の産休期間でした。フリーのヘアメイクは基本的に終わり時間が分からない不規則な仕事なので、復帰後はテレビの生放送など、終わりが決まっている仕事を増やしました。また、ネイルの仕事ならば終わりの時間が読めることもあり、徐々にネイルの仕事に比重を置くように。おかげで、子育てしながら仕事のサイクルをつかむことができ、産後半年ほどで産前の頃の収入に戻りました」
ちなみに、江利川さんはお子さんを0歳のときから保育園に預けましたが、入園するまではベビーシッターを利用していたのだとか。
「産休育休はないものと思って1人目は頑張りましたが、意外と仕事はなくならず、『もっと休んでも大丈夫だったな』と思いました。だから2人目の時は、休みを長めにしました。それまでの仕事の実績を、周りの方がきちんと分かってくださっていたようです」
ケース2. 入院中も取引先とやりとりし、密な信頼関係を築く
3人のお子さんを持つ林紗矢香さん(30代)は、2人目を妊娠中の時にフリーランスのデザイナーに転向し、現在はアパレルショップを経営しています。
「変化の早いアパレル業界で6カ月も休むことは考えられず、ほかの人に代わってもらえば、その仕事は戻っては来ません。そのため、産後1カ月ほどは商談やショップに立つのは休みましたが、入院中も取引先とメールやLINEのやりとり、退院1週間後には自宅でデザイン作業は再開していました。取引先の計らいもあって、商談に出ていない1カ月間も特に報酬を減額されることはありませんでした。ただそれは、その間も成果物は納品していたことと、1カ月後にはすぐ復帰する約束をしていたことからだと思います」
また、子どもを産む前と同じように自分一人で仕事をしようとするのには無理があるといいます。
「子どもを育てながら仕事をするコツは、すべてを完璧にやろうとせず、たとえできないことがあっても罪悪感を抱かないことです。頼れる人には頼りましょう。子どもの病気や家庭のことで、クライアントに迷惑をかけた時のために、日頃から信頼関係を築いておくことが重要です」
ケース3. 保育園に入園しやすくするため、仕事を掛け持ち
新宿でバーを経営する菊地陽子さん(40代)は、お店のオープンと妊娠0週が同じだったといいます。
「オープンして2カ月ほどで妊娠が発覚し、産休を取ることにしました。運良く、代わりに働きたいという知り合いがいたので、その人に店を任せて、子どもが小学校に上がるまではバーは休もうと思っていたんです」
しかし数年経ったころ、家賃滞納の連絡をもらうことに……。
「代わりに働いてくれていた方に家賃代も含めバイト代を払っていたのですが、店舗の家賃を滞納していたようでトラブルになりました。それで“自分の店は、自分で切り盛りしなくては”と思い、子どもが3歳ごろに復帰しました。集団行動で多くの方と接することで、子どもに社交性を身につけさせたく、保育園の入園を希望しましたが、働く時間帯の関係で、希望の保育園に入所できなかったんです。そこで、昼間は区立の保育園の非常勤調理師として週4日働きました。8時30分~17時15分まで保育園で働き、20時~夜中までバーで働く生活を5年間続けました。今は子どもが小学生になったのでバーの仕事だけで、夜は子どもの面倒を家族に見てもらっています。掛け持ちして働いているときは大変でしたが、子どもを生んで後悔したことはありません」
産後すぐの復帰に保育園の利用が必須! フリーランスマザーの保活問題
話を伺ってみると、かなり大変そうなフリーランスの産休育休問題。そもそも、フリーランスの女性が妊娠・出産を視野に入れた場合、どのような点が重要になるのでしょうか。「フリーランスマザーのための保活研究会」を運営する合同会社カレイドスタイル代表・小野梨奈さんに聞いてみました。
――フリーランスのママが子どもを産もうと思った場合、どういった点に気を付ける必要がありますか?
産後どれくらいで仕事に復帰するかをイメージして、すぐに仕事を再開する場合には、預け先を確保する必要があります。待機児童が多い自治体の場合、年度途中で預けることはかなり難しいので、保育園に預けられるまでは、家族にお願いするのか、ベビーシッターや一時保育を利用するのかなど、事前に情報収集しておくと良いと思います。
――具体的に、どういったことを意識すべきですか?
認可保育園に申し込む場合、申請書類の書き方には気をつけましょう。というのも、申請書類のフォーマットは、基本的に会社員のワークスタイルを想定して作られたものが多いので、そのまま欄を埋めるだけでは、フリーランスの仕事状況を正しく理解してもらえない可能性があります。どういう仕事をどれだけしているのか、取引先なども含めた実績をアピールした書類も別途提出した方が効果的です。
――そんなこともあるんですね……。そのほか、保活を成功に導くにはどうしたら?
早めに役所に相談しに行くことです。保育園の入園選考はポイント制になっていて、点数が高い人ほど優先的に入園できるようになっています。たとえば、「近くに両親や祖父母など面倒を見てくれる人がいない」「片親家庭」などはプラスポイントになったり、「就労継続期間が短い」とマイナスポイントになったりします。
点数のつけ方は自治体によって異なるため、自分が住むエリアではどうなっているのかを把握するためにも、母子手帳を取りに行くタイミングなどで、一度役所に相談してみてください。
――申請書類が自治体によって異なるとは、ややこしいですね。
複雑さでいえば、2人目以降の保活も注意したいところです。私の住む自治体では、自営業者には2カ月間の産休が認められていますが、その後、仕事復帰しないと、すでに保育園に預けている1人目は退園しなければならないというルールがありました。2人目の預け先を確保できないままやむをえず仕事を再開すると、今度は「子連れ同伴勤務」とみなされて、2人目の入園審査で不利になってしまうのです。
――預け先が見当たらないから、やむを得ず自分で面倒を見るしかない状況は十分にあり得るケースです。もしそうなった場合、何か対策はあるのでしょうか?
一時保育を利用する、ベビーシッターを利用する、家族に預ける……などが考えられます。これらの利用実績は入園審査の際に加点になります。加点の条件は、自治体の申請書類でチェックしておくと良いでしょう。
ちなみに、国民健康保険に加入している場合、出産育児一時金が1児につき42万円が支給されます(※産科医療補償制度に加入されていない医療機関などで出産した場合は40.4万円)。ただし、雇用保険には加入していないので、育児休業給付金などの給付金はもらえません。この時期は出費がかさむので、貯金は欠かせないですね。
視点を変えれば、フリーランスは子どもの預け方も自由自在
――フリーランスにとっても保活は厳しい状況のようですね。
確かにそうですが、見方を変えれば、ライフワークに合わせて、子どもの預け方を変えられるのもフリーランスの特権です。会社員であれば育休期間が終わり次第、すぐに復帰しなくてはなりません。
でも、フリーランスならば育休期間も自分で決めることができます。たとえば出産後はフルタイムに戻る予定でいても、産んでみたら子どもともっと一緒にいたいと思うこともあります。そういったときに認可保育園意外の提携保育や一時保育などに預け、ゆるやかに仕事を再開するといった選択も可能です。フリーランスならば、さまざまな預け方ができるのではないでしょうか。自分らしい働き方に合わせてほかの方法を探ってみるのも良いかと思います。