夫婦で雑貨店を経営、その働き方と金銭事情【後編】

東京・目黒区と品川区で雑貨店を2店経営する青木辰徳さん・未来さんご夫妻。仕事の役割はどうしているのか、夫婦でお店を開く際に考えるべきこととは? 夫婦経営の実態について、聞いてみました。前編はコチラ

5年分の帳簿データがすべて飛ぶ事件が発生

――2店舗をそれぞれが店番されていますが、仕事上での役割分担はありますか?

辰徳さん:書類上では、僕が個人事業主で、妻が従業員となっています。でも実際は対等に働いていて、主に企画や経理は妻、対外的な交渉などは僕の仕事です。

 

未来さん:どちらのお店もオープンは12時で、営業時間中はお客さまへの接客が中心です。営業時間外に事務的な仕事をしたり、作家さんの発掘をしたりしています。事務的な仕事に早起きして取り組むか深夜に取り組むかは、その日によって決めています。労働時間で考えると会社員時代よりも働いていますが、自分の裁量で決められるので、そんなにストレスはないですね。

――事務的な仕事の話が出ましたが、苦労されていることは……

未来さん:私たちのお店は国内の卸問屋から買い付けるだけでなく、作家さんからの委託販売や買い取り、さらにオリジナル商品も作っているので、支払いのフローが全然違うんです。そのため、領収書や仕入伝票、請求書の整理がとても大変! 1カ月で、伝票の束が10センチほど積もってしまうんですよ。ときには、営業終了後に伝票整理を始めて、朝4時までかかることも……。

 

辰徳さん:毎日こまめに整理すればいいのは分かっているのですが、通常業務が立て込むと伝票整理に手が回らず、あっという間に溜まっちゃうんですよね。今は2店舗分だから、開業当初よりも量が増えているし。


未来さん:青色申告会の会員になってオンラインの会計サービスを使っていたのですが、5年分のデータが全部飛んだことがあります。あれは地獄でしたね。しかも、ちょうど2店舗目をオープンした直後で、慌ただしい時期だったんです。

 

データを復旧してくれる会社に頼んで、ある程度は回復できたのですが、その年の分はイチから帳簿をつけ直すことに……。そのときは7月で1年の半分は過ぎていたから、入力が多くて大変でした。自分の中では経理システムはでき上がっているのですが、だからといってマニュアル化できていない悩みはありますね。

集客は広告を使わず、SNSで情報発信

――具体的なお店の経営について伺いたいのですが、売り上げはどのように確保されているのでしょうか。また値付けはどのようにしているのでしょうか?

未来さん:都立大学にある食器とキャンドルのセレクトショップ「Clave.」(クラーヴェ)の場合は、食器とキャンドルの雑貨の売り上げが中心です。西小山にある器と暮らしの道具を扱う「Parque」(パルケ)は食器の販売だけでなく随時企画展も開催しているので、作家さんが企画展で販売した売り上げの数%を手数料として得ています。取り扱う品は、絵や写真、洋服など、さまざま。今後、「Parque」はギャラリーの貸し出しも検討しています。

 

どちらもお客さまは20代後半から40代の女性が多いですね。食に興味のある方や器をよく使う仕事の方、料理家さんなどが面白がって来てくれます。そのほか、外部からの依頼でテーブルコーディネートを手掛けたり、デパートと催事を組んだりすることもしています。


辰徳さん:値段の付け方は、本当にさまざまです。海外から買い付ける場合は、旅費や為替の変動によって変わることもあります。ほか、作家さんやメーカーとの契約で価格を決めることもあるので、一概にはいえないですね。

――コンスタントに収益を得るための打ち手はありますか?

未来さん:正直なところ、収益はなかなか安定しません。すごく売り上げの良かった月があったかと思えば、極端に低い月も必ずあります。売り上げが高かった月は、ある程度のお金をお店の貯金に回すことを心がけていますね。

 

辰徳さん:日頃から、作家さんを発掘するためにインターネットで探したり、展示会に行ったりしています。売り上げを立たせる施策としては、情報発信に力を入れていますね。「Clave.」のお店の前は人通りが少ないので、SNSで定期的に入荷情報を発信しています。「Parque」もSNSで常に情報を配信しつつ、こちらは常に企画展を開いているので、それに興味をもって来店してくれる方が多いですね。

売り上げで家賃が払えるようになるまで、5年かかった

――経営はいつごろから軌道に乗りましたか?

未来さん:2010年10月にオープンした「Clave.」が、家賃を払えるようになったのは昨年ですね。それまではずっと貯金を切り崩していたし、親族から借り入れもしていました。あと日本政策金融公庫からの融資も受けています。家賃が払えるようになったのは、軌道に乗った1つの目安かもしれません。だからといって儲かっているとはなかなかいえず、必要な生活費以外は自分で自由に使えるお金はほとんどないかな。

 

辰徳さん:時間も休みのさじ加減は自分たち次第ですが、休んだら収入がなくなるので、そのバランスが難しいところです。プライベートというプライベートはありません。休みの日でも、仕事につなげるために作家さんの展示に行ったりクラフト展に行ったりで、ほぼ1日終わっちゃう。そんなガツガツはしていないんですけど、「いい作品だな」と思ったら、その作家さんに連絡してみようと思ってしまうので。

――夫婦経営ならではの経済的リスクに対する対処法はありますか?

未来さん:片方が事故・病気などで働けなくなった場合、入院や通院費をカバーしてくれる保険に入っています。

 

辰徳さん:営業時間を昼12時からと少し遅めにしているのは、運転資金や生活費の不足といった事態が起こったとき、どちらか片方が早朝や深夜に外で働いて収入を得るなど、働き方を柔軟に変えられるようにと思ったからなんです。

――夫婦経営を考えている人に、アドバイスをお願いします!

辰徳さん:金銭面や2人の距離感の取り方など、夫婦で一緒の仕事をするのは想像よりも大変かもしれません。特に距離感は、夫婦であっても踏み込み過ぎてもいけないところと、踏み込まなきゃいけないところの判断が難しい。最近になってようやく、つかめてきた気がします。

 

未来さん:お互いの仕事に干渉しすぎると、仕事が進まなくなることも。夫婦で経営というと一緒に過ごす時間が多いと思われますが、一緒に経営をしていても、役割によって生活のペースが全然違ってくるので、意外と会社勤めのときよりも時間は短いかもしれません。

 

辰徳さん:とはいえ、会社員のときには経験できなかったこともあり、楽しいことも多いですよ。

Interview
青木辰徳さん/青木未来さん
青木辰徳さん/青木未来さん

食器やキャンドルなどの雑貨を扱った「Clave.」(東京都目黒区)と「Parque」(同品川区)を夫婦で経営する。
▼Clave.
http://www.clave.jp/
▼Parque
http://parque-tokyo.com/

Writer Profile
名久井梨香
名久井梨香

1989年生まれ、吉祥寺在住。新卒で大手広告会社の営業職に就職するも、会社員は向いていないと気がつき、1年で退職。その後フリーライターとなる。趣味は横浜F・マリノスとカレー。

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