
個人事業主にとって、税務調査の呼び出しがあった際の不安は計り知れないかもしれません。そのような場合、真っ先に頼るべきなのは契約を交わしている税理士であるのは間違いありません。しかし、税理士とは未契約の個人事業主が、税務調査の連絡を受けてからはじめて契約した場合でも、税務調査の結果に違いは出るのでしょうか。個人事業主との良い付き合いについて、税理士の伊藤由一さんにお聞きました。
税務調査が入ってから交わす税理士との契約は有効?
――税務調査の連絡を受けてから税理士を探して契約するようなケースで、追徴税額など税務調査の結果に違いは出るのでしょうか?
税理士の力量や経験によっては、追徴税額が安くなることはあると思います。そういった意味では、どの税理士をパートナーとして選定するかは重要ですね。ただ、過度に期待することはやめた方がいいと断言できます。
そもそも、税務調査の連絡後に税理士が出てきて追徴税額が少なくなるのであれば、平常時から税理士と顧問契約を結ぶ必要がなくなってしまいます。また、以前は国税OBの税理士が交渉することで税額が安くなるケースが見受けられましたが、現在はそういったことも通用しなくなったようです。
――会計事務所のサイトを見ていると、税務調査に強いことをウリにしている税理士も見かけます。
調査対応のノウハウと、税制改正とのイタチごっこの側面もありますから、期待しすぎるのは良くないと思います。たとえば、「調査の連絡(事前通知)を受けてから、実際の調査が行われるまでに修正申告をする」場合に加算税がかからないというノウハウも流行りましたが、「平成28年度 税制改正大綱」で、事前通知があった時点で加算税が課されるようになりましたから。
税理士と個人事業主に必要なのは信頼関係
――税務調査をきっかけに、お客さまとなるケースもありますよね? 営業上のチャンスとはなりますか?
税務調査をきっかけにしたお付き合いが、まったくないわけではありません。もちろん得意な業種や、税務調査を多く経験しているパターンがあれば、追徴税額を抑えてお客さまにご満足いただくことができます。ただ、こういうケースではどうしても、事業主の納税に対する考え方に左右されることが多いと思います。運良く追徴が低く抑えられたら良いですが、そうじゃなかった場合、残念ながらお客さまからは感謝されずにお付き合いが終わることもあります。
――困るのはどのようなケースですか?
自分が確定申告に関わっていないことで、意図的な売上漏れなど、脱税の痕跡が見つかるケースも少なくありません。その時点で税務署への交渉は圧倒的に不利になりますし、税理士自身が加担していると思われるのもリスクですよね。これは税理士に対する裏切り行為ともいえます。
――税理士との良い付き合い方があれば教えてください。
税理士業務も、個人事業主をはじめお客さまとの信頼関係で成り立っています。税務調査をきっかけに、社内の業務や経営の改善に取り組みたいという、前向きなお考えであれば、税理士としてこんなにやりがいのあることはありません。単なるサービスとして活用するという姿勢ではなく、事業を営むうえでのパートナーとして接していただけると幸いです。