道路拡張等の公共事業は税金が非課税に?立ち退き料の課税の仕組み

自宅や事務所を立ち退かねばならないとき、立ち退き料が支払われます。この立ち退き料に税金がかかるのはご存じでしょうか。事業とは無関係な収入については、その課税関係についても疎くなりがち。いざというときに備えて、前知識を持っておきましょう。

立ち退き料も確定申告が必要

「わが家(事務所)を立ち退かねばらならないのに、さらに税金もかかるなんて!」と思うかもしれません。

 

しかし、所得税法上、立ち退き料は「収入」として扱われるため、確定申告は必要です。また、何に対して立ち退き料が支払われたか、誰の都合で立ち退くのかによって課税方法が違い、特殊な非課税枠も存在します。

賃貸物件を立ち退いた場合の課税方法

立ち退く物件が賃貸物件か所有する建物かによって、課税方法は異なります。賃貸物件の場合、何に対して立ち退き料が支払われたかにより、立ち退き料の所得としての区分が変わります。

立ち退き料の性格と所得区分

(1)資産の消滅の対価保障として立ち退き料が支払われたケース

国による区画整理など、土地または建物の明渡しによって消滅する権利の対価として支払われた立ち退き料は、「譲渡所得」になります。立ち退き料として受け取った金額が取得費(購入代金、購入手数料、設備費、改良費などの合計から減価償却費相当額を控除した金額)が50万円を超えれば課税されます。

 

(2)収入金額または必要経費の補てんとして立ち退き料が支払われたケース

立ち退きにともない、行っていた事業の休業等による収入または必要経費を補てんする目的で支払われた立ち退き料は、事業所得等の収入金額になります。確定申告の際は、事業収入に立ち退き料を追加します。

 

(3)その他

上記の(1)(2)以外の目的で支払われた立ち退き料は、「一時所得」になります。
※一時所得の計算方法……一時所得=(立ち退き料-50万円)×1/2
(参考:国税庁 No.3155 借家人が立退料をもらったとき/No.3152 譲渡所得の計算のしかた 総合課税)

公共事業拡大のために持家を立ち退く場合には非課税の条件も

立ち退く物件が持家の場合、立ち退きをすると、土地・建物といった所有している資産がなくなります。このとき、その資産の購入金額を立ち退き料が上回って利益が出ると、譲渡益として課税対象となります。

 

しかし、特に高速道路や線路のような公共事業での立ち退きを要求された場合、たまたま生じた利益が課税対象となるのでは納得がいきませんよね。そのため、公共事業拡大のための立ち退きには、控除が用意されています。また、特定の条件により非課税となるケースが存在します。

 

国による立ち退きを要求されると、その譲渡益に対して5,000万円が控除されます。

 

たとえば、10年前に3,000万円で買った土地が6,000万円で国に買い取られた場合、6,000万円-3,000万円=3,000万円の譲渡益が出たと見なされます。しかし、5,000万円の控除により3,000万円は相殺され、このケースでは非課税となります。

 

※事業施行者等から最初に買い取り等の申出があった日から6カ月以内に譲渡した場合に限る。

※国の買い取り費用でほかの土地(建物)に買い換えたときは、譲渡益がなかったものとされます。

 

ただし、5,000万円の特別控除を受けるには、次の要件すべてに当てはまることが必要です。

公共事業にともなう立ち退きで5,000万円の特別控除を受ける条件

  1. 売った土地建物が固定資産であること(不動産業者などが販売目的で所有している土地建物は、固定資産にはなりません)。
  2. その年に公共事業のために売った資産の全部について「収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例(国からの対価補償金などでほかの土地建物に買い換えたときは譲渡がなかったものとする特例)」を受けていないこと。
  3. 買取りなどの申出があった日から6カ月を経過した日までに土地建物を売っていること。
  4. 公共事業の施行者から最初に買取り等の申し出を受けた者(その者の死亡に伴う相続などにより、当該資産を取得した者を含む)が譲渡していること。

 

上記以外にも、土地建物を売ったときには各種の特別控除の特例があります。国税庁では、下記のような例を挙げています。

 

  • マイホーム(居住用財産)を売った場合……3,000万円
  • 特定土地区画整理事業などのために土地を売った場合……2,000万円
  • 特定住宅地造成事業などのために土地を売った場合……1,500万円
  • 2009年及び2010年に取得した国内にある土地を譲渡した場合……1,000万円
  • 農地保有の合理化などのために土地を売った場合……800万円

 

また、これらの特別控除は、あくまでも補償金の中の対価補償金(買い取った土地建物の対価に相当する性質の補償金)を対象としています。そのため、移転補償金などは対象外となります。

(参考:国税庁 No.3552 収用等により土地建物を売ったときの特例)

 

このように、立ち退き料については、さまざまな税金の軽減制度が設けられています。ただ、その制度が複雑であることが難点。まずは、確定申告が必要であることを把握し、具体的な申告方法については専門家の助言を仰ぐことが賢明です。

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