税務署の行政指導は税務調査の一環?税理士が指南する「お尋ね」対処法

個人事業主として毎年確定申告をしていると、税務署から「申告内容のお尋ね」などの件名で文書が届く場合があります。これは税務署が申告内容の確認を行うための「行政指導」といわれるもの。行政指導は、税務調査とどのような点が異なるのでしょうか? また、この行政指導にはどのように対応すべきなのでしょうか? 税理士の伊藤由一さんにポイントをお聞きしました。

行政指導は税務調査と何が違う?

――税務署が行う行政指導がどういうものか教えてください。

行政指導とは一言でいえば、税務署から納税者への確認作業のこと。たとえば、「提出された申告書に計算間違いがあるのではないか?」「扶養控除対象者の所得が基準を超えているのでは?」など、税務署が疑問を持った際に、納税者に申告内容の見直しと、必要に応じて修正申告書の提出を促す連絡が入ります。ほかにも、申告書の未提出や添付書類漏れなども該当します。

 

連絡は、だいたい電話か「お尋ね」と呼ばれる文書が郵送されてきます。医療費控除や住宅ローン控除で確定申告をしていれば、サラリーマンのような給与所得者でも行政指導の連絡が入るケースはあります。しかし、やはり個人事業主に対する行政指導の数の方が圧倒的に多いと思います。

――申告内容を確認する税務調査とは、何が違うのでしょうか?

大きな違いは2つあります。まずは「修正申告した場合の加算税の有無」です。通常、税務調査の結果を受け修正申告した場合には、過少申告加算税など罰金的な側面のある加算税を納める必要があります。加算税の内容にもよりますが、税率は追加で納めることになった所得税に対して5%~20%程度です。でも、行政指導の内容に従って修正申告した場合には、この加算税は一切かかりません。

 

もう一つの違いは、「回答義務の有無」です。税務調査は、「国税通則法」という法律で税務官の質問に答弁しない場合などの罰則が明記されています。国税局査察部による強制調査と違って、通常の税務調査は任意ですが、この法律の規定によって、実際には拒否できないようになっていると考えて良いでしょう。

 

一方の行政指導ですが、こちらは「行政手続法」という法律で規定されています。行政指導には法的な拘束力はなく、あくまでも「自主的な協力」という前提の上に成り立っています。また、行政指導に従わない場合でも、不利益な扱いを受けることがないよう法律に定められています。

行政指導への正しい対処法

――加算税があるか、ないかの差は大きいですね。税務署からの連絡が、行政指導か税務調査かを判断することはできるのでしょうか?

国税庁ウェブサイトの「調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)」には、次のように書かれています。

 

納税義務者等に対し調査又は行政指導に当たる行為を行う際は、対面、電話、書面等の態様を問わず、いずれの事務として行うかを明示した上で、それぞれの行為を法令等に基づき適正に行う。
出典:国税庁ウェブサイト

 

実際に最近の税務署からの文書には、この連絡が税務調査なのか、行政指導なのかが明記されているので、判断は簡単にできます。もし不明な場合でも、税務署に問い合わせれば必ず教えてもらえるので、まずは落ち着いて確認すべきでしょう。

――確認の結果、税務調査だった場合のみ応対するという認識で良いでしょうか?

個人的には、行政指導の場合にも可能な限り応対すべきだと考えています。それは、行政指導に法的な拘束力はないといっても、税務署はある程度の根拠や下調べをした上で行政指導を行っているからです。ですから、一旦は指摘されている内容の見直しをするのが得策だと思います。もしかしたら自分でも気付いていなかった間違いがあるかもしれないですし、修正申告をするにしても加算税はかからないわけですから。申告内容に間違いはないという根拠があれば、その通りに回答するという選択肢ももちろんアリです。

――そのほか、注意すべきポイントはありますか?

税務署の業務をある程度効率化できることから、今後も申告内容の確認手段として行政指導が活用されていくことが予想されます。行政指導の内容が不明な場合でも対応を先送りせず、すぐに管轄の税務署に内容を確認したり、税理士などの専門家に相談したりすることが大切です。特に税務署からの連絡は、回答までの期限が設けられているケースがほとんどですから。

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