退職金は、収入の一つとして課税対象になります。では、どんな所得に分類され、税額はどのように計算するのでしょうか? 退職金にかかる税金と、退職金を受け取った際の確定申告の方法について説明します。
退職金は何所得?
退職金も収入の一種です。「退職所得」に分類され、課税対象となります。
退職所得の定義は、「退職時に一時金として受け取る給与」です。したがって、もともと退職金として積み立ててあったものを退職する前に前借りして受け取れば、退職所得ではなく「給与所得」とみなされます。
また、退職をきっかけとして受け取るものでも、複数年にわたって受け取れる「退職年金」の場合は、退職所得ではなく「雑所得」として課税されます。
退職所得にあたるもの
(1)下記の法律の規定に基づいて支給される一時金
- 国民年金法
- 厚生年金保険法
- 国家公務員共済組合法
- 地方公務員等共済組合法
- 私立学校教職員共済法
- 独立行政法人農業者年金基金法
(2)次に掲げる一時金
- 改正前の厚生年金保険法の規定に基づく一定の一時金で加入員の退職に基因して支払われるもの
- 確定給付企業年金法の規定に基づいて支給を受ける一時金で加入者の退職により支払われるもの(その掛金のうちに加入者の負担した金額がある場合には、その一時金の額からその負担した金額を控除した金額に相当する部分に限ります)
- 特定退職金共済団体が行う退職金共済制度に基づいてその被共済者の退職により支給される一時金
- 独立行政法人勤労者退職金共済機構が中小企業退職金共済法の規定により支給する退職金
- 独立行政法人中小企業基盤整備機構が小規模企業共済契約に基づいて支給する一定の共済金又は解約手当金
- 適格退職年金契約に基づき支給される退職一時金(その契約に基づいて払い込まれた掛金又は保険料のうちに支給を受ける人の負担した金額がある場合には、その一時金の金額からその負担した金額を控除した金額に相当する部分に限ります)
- 平成25年厚生年金等改正法附則又は改正前の確定給付企業年金等の規定に基づいて支給を受ける一定の一時金で加入員又は加入者の退職により支払われるもの(その掛金のうちに当該加入者の負担した金額がある場合には、その一時金の額からその負担した金額を控除した金額に相当する部分に限ります)
- 確定拠出年金法に規定する企業型年金規約又は個人型年金規約に基づいて老齢給付金として支給される一時金
など
退職所得にかかる税金の計算方法
退職所得にかかる所得税額は、下記の通り順を追って求めます。
(1)退職所得者控除を求める
退職所得者控除は、下記の表から求めます。なお、1年未満は切り上げます。
退職所得控除額の計算の表
退職所得控除は、勤続年数が長ければ長いほど額が大きくなります。つまり、勤続年数が長い分だけ、退職所得にかかる税金が低くなるということです。特に、勤続年数が20年を超えてから控除額が大幅に大きくなります。
(2)課税退職所得金額を求める
課税退職所得金額は、下記の式で求めます。
(退職金の金額-退職所得控除)×1/2=課税退職所得金額
(3)税率と控除額
課税退職所得金額の1,000円未満を切り捨て、その額をもとに、下記の表から税率と控除額を確認しましょう。
■退職所得の源泉徴収税額の早見表
(4)納める所得税額を求める
最後に、下記の式から納めるべき所得税の税額を求めます。なお、求めた税額の1円未満の端数は切り捨てます。
(課税所得金額×税率-控除額)×102.1%=納めるべき所得税額
退職所得があるときの確定申告
退職金を受け取ると、納税の義務が生じます。このとき、退職金を受け取るまでに「退職所得の受給に関する申告書」を勤め先に提出すれば、翌年に確定申告をする必要はありません。
もし退職所得の受給に関する申告書を提出していなかった場合は、退職金の額から税率20.42%分の源泉所得税が差し引かれてしまいます。 引かれすぎた税金は退職金の受け取り後に確定申告することで戻ってきますが、一時的とはいえ税金が多く引かれてしまうことにメリットはありません。退職所得の受給に関する申告書を提出していた場合とそうでない場合で、税額がどれぐらい違うのかを比較してみましょう。
■退職金2,300万円、勤続年数29年2カ月の場合の所得税額
<申告書を提出していた場合>
- 勤続年数:30年(1年未満の場合は切り上げのため)
- 退職所得控除額:1,500万円(800万円+70万円×10年)
- 退職所得:400万円((2,300万円-1,500万円)×1/2)
⇒税額:38万322円((400万円×20%-42万7,500円)×102.1%)
<申告書を提出していなかった場合>
税額:469万6,600円(2,300万円×20.42%)
提出していなかった場合は本来よりも430万円以上も多く税金が引かれることになってしまいます。もし提出し忘れた場合は、退職金を受け取った翌年の3月15日までに確定申告をして、払いすぎた税金を取り戻しましょう。
また、退職所得の受給に関する申告書を勤め先に提出していても、退職後に扶養者が増えたり、医療費が多く掛かって医療費控除を受けたりするなど、控除に関する状況が変わった場合は要注意。払いすぎた税金が戻ってくる場合がありますので、確定申告をしたほうが良いでしょう。
一般的に、退職金はほかの収入よりも控除が大きく税金も掛かりにくいもの。しかし、知らなければ何倍もの税金を余計に取られることもあります。今後のためにも、しっかりと退職金の税金の仕組みを理解しておきましょう。